残業を巡る混乱は、ユーザー企業のIT部門にとっても他人事ではない。危機意識を募らせる2人のCIO(最高情報責任者)が、IT部門の働き方改革で試行錯誤する現状を打ち明けた。

ケース1・・・できる若手を育てにくい

 「残業の規制は弱い人を守るために必要。ただ、やる気のある部下を育てにくくなる」。大手製造業C社のCIOである矢野氏(仮名)は、こうぼやく。

 矢野氏はかつて、長時間残業を強いられる仕事に従事。その中でITスキルだけでなく、ビジネスで何が求められるのかを体で覚えたという。具体的には若手時代、オフコンを刷新する中心メンバーとして、全国各地の拠点を行脚した。拠点ごとにバラバラだった業務手順の標準化を推進するため、各地の業務部門の責任者や事務担当者と議論を重ねた。

 この間、各地の責任者に叱られた回数は数知れず、ピークには1カ月の残業が200時間を超えた。今振り返れば無駄な仕事も相当やっていたが、後にグローバルで基幹システムを統一する大プロジェクトを成功させるために必要な実力が付いた。「当時の経験は宝物」と矢野氏は懐かしむ。

 ところが、残業が問題となる現状は、自分がやってきたようなやり方は許されない。長時間残業を強いられる仕事は、たとえ見込みのある部下でも任せるわけにはいかない。かといって、普段の仕事をやらせているだけでは、経験が不足する。「昔の部下が1年で身に付けられたことでも、2年かかってしまう」。矢野氏はそれが歯がゆくて仕方がない。

 足りない経験を補うには、就業時間外での活動がものをいう。ただ時間外での活動を上司が指導するわけにもいかない。そこで「どんなプロフェッショナルになりたいか」という点をメンバーらと議論。自然に彼らが行動に移すよう、懸命に振る舞っている。