残業時間が60時間を超える「ブラック状態」を解消するため、働き方改革に力を入れる大手IT企業が増えている。ところが、その残業削減策が空回りし、当の現場では悲鳴が上がっている。大手IT企業の二つの例を紹介しよう。

ケース1・・・リモート環境のせいで24時間連絡を受ける状態に

 佐藤氏(仮名)は、大手ITベンダーA社のプロジェクトマネジャーだ。24時間365日の稼働が要求される大規模システムの開発や運用のチームを率いる。A社は残業削減に力を入れ、遠隔地(リモート)で仕事ができる環境を整えた。顧客から直接受注する元請けの立場でもあり、恵まれた環境に思える。

 ところが、現実は全く違うと打ち明ける。例えば深夜、佐藤氏のもとに連絡がよく入る。なまじリモートで仕事に取り組める環境が整っているために、「対処して当然」と周囲から見られるのだという。

 優秀な一部のメンバーには同様の連絡が入る。佐藤氏は以前、負荷を減らそうと朝、昼、夜の3交代制を検討した。しかし、3交代を回せるだけのメンバーも確保できず断念。「結局、少ない人数で対応せざるを得なかった」とぼやく。

 一方で顧客企業のキーパーソンは佐藤氏に対し、対面でのやり取りを求める。「直接話したほうが意思決定やトラブルの解決が早い」という考えを持つためだ。人手不足の影響で、遠方の顧客を担当することも増えた。移動時間が馬鹿にならない。佐藤氏の眠れない日々が続いている。