米アップルがiPhoneを発売してから10年。当時、スマートフォンの新たな可能性を象徴する製品として登場したiPhoneはアップル信者たちを虜にした。そこから数年、iOSがプラットフォームとして各サービスへ波及すると、iPhoneはアップル信者にとってだけの画期的なデバイスではなく、誰もが手にする日常的なデバイスへと姿を変えた。

 日常化したスマートフォンは私たちの生活をガラリと変え、そしてある芸人の人生も変えていた。お笑い芸人、かじがや卓哉。またの名を、iPhone芸人だ。

 2015年に放送された番組「アメトーク」でiPhoneに詳しい芸人として有名になった。今では彼のもとに年間1000件以上iPhoneに関する質問が寄せられる。それらをまとめた書籍「iPhone芸人 かじがや卓哉がズバリ教える iPhone初心者 今日から役立つ100のネタ」も発売されている。

 高校卒業後、税理士資格を取得するために勉強に明け暮れた日々。しかし、とあることをきっかけに芸人への道を歩み始めた。そんな彼の芸人生活を変えたのがiPhoneだ。想いを聞いた。

(聞き手は西本 美沙=フリーライター、原 隆=日経FinTech


(撮影:陶山 勉)
(撮影:陶山 勉)

いつからお笑いの世界へ?

 25歳で芸能界に入った。この4月で9年目を迎える。もともとは税理士になろうと19歳から27歳まで資格の勉強をしていた。高校在学中に税理士の平均年収が3000万円というのを見て、税理士になればすべてが手に入ると思った。税理士になるなら大学で勉強するより税理士の勉強をした方がいいと思い、大学には行かず一人で税理士試験の勉強をしていた。

 誰とも連絡を取らず勉強をしていたら、気づけば友達が誰もいなくなった。合格しても喜び合う友達がいない。人生このままでいいのだろうかと悩み、友達を作りたくて吉本興業の吉本総合芸能学院(通称:NSC)に入った。税理士試験にはNSC在学中に合格した。

 NSCでは、お笑いの“間”を学ぶためにリズム感を身につけるダンスや、演技の練習、発声練習などをしていた。お笑いのロジックを学べる勉強は一切ない。本当はそういうものを教えて欲しかった。

そしてNSCを卒業して、お笑い芸人になった。

 NSCを卒業すれば99%お笑い芸人になれる。ただ、吉本所属といっても誰も吉本と契約書を交わしたことがない。本当に所属しているのかすら分からない。「ここで打ち合わせがあるから行ってきて」という指示に従っているだけだ。今でも不安だ。

 税理士事務所も開業しているので、確定申告は自分でする。ほかの人の税理士業務も請け負っている。3月15日の確定申告前は大量にある確定申告資料を片付けられるかが不安だった。

 しかし今は、FinTechのおかげでずいぶん楽になった。家計簿アプリ「Moneytree」でモバイルデータバンキングやクレジットカードの情報を紐付け、会計ソフト「弥生会計」を連携させて使っている。自動で日付と金額が入力されるため、登録内容が合っているかを確認するだけで済む。