今年、誕生から10年を迎えるiPhone。パソコン主流の時代を変え、インターネットサービスの在り方も変えた。iPhoneが登場する3年前の2004年、「GREE」はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)として産声を上げた。パソコン、フィーチャーフォン、スマートフォンと世の中の主流となるデバイスの変遷とともに、消えた会社が数多くあるなかで、グリーは途中で苦しみながらもうまく時代に合わせて成長を続けてきた。グリー創業者であり、会長兼社長の田中良和氏はiPhone生誕10周年に何を思うのか。

(聞き手は西本 美沙=フリーライター、原 隆=日経FinTech


(撮影:的野 弘路)
(撮影:的野 弘路)

初めてiPhoneを見たときの印象は。

 当時、電話付きのiPodが出るという噂があったが、本当に発売されて驚いた記憶がある。初めて見たときの印象は、どこからどう見てもかっこいいなと感じた。だが、キーボードがなくて大丈夫なのかとも思った。購入してみて一番びっくりしたのは、電池が持たなかったことだ。

 iPodに電話を付けるという発想は誰も思い付かなかった発想ではない。しかし、統合されたときのインパクトはとんでもなかった。単に電話機能を付けただけではなく、そこには「App Store」などのエコシステムがあった。ここまでユーザー体験を一気通貫で実現したものはそれまでなかった。それらを全てひっくるめてすごいと思った。

 これは自社でサービスを作りながらも感じたことでもある。SNSを作る前から、世の中には掲示板もプロフィルサイトもあった。しかし、連動することで別のサービスが出来上がる。コンセプチュアルなことは誰でも言える。だが、高度に融合した結果、全く別のものができるというのはこういうことなんだとiPhoneを見て感じた。

iPhoneを生み出した故スティーブ・ジョブズ氏について同じ経営者として何を感じるか。

 Macintosh時代の彼はよく分からない。個人的に彼のすごさが分かるのはiPod、iPhone以降だ。既に音楽機能付きMP3プレーヤーがあったなかで、iPodは生まれた。既に存在しているものをここまで違うものに変えられる能力、そして、これを発注できる経済力。この2つを持っているのは世界にこの人しかいないだろうという衝撃を受けた。iPhoneをカッコよく、かつ、あの価格で売ることは世界で誰もできなかった。

経営者の仕事は社会で実現させてこそ意味がある

 コンゼプトモデルとして作れたとしても、このオーダーを実現できる人が世界に何人いるのだろうと興味が湧いた。面白いデザインを作ることと、実際に商品として全世界で売るということには、かなりの乖離がある。経営者の仕事はそれを社会で実現させてこそ初めて意味がある。

 あのタイミングにあの規模でiPhoneを売り出せるのは、アップルが世界中に流通網を持っていたからだ。Macがあって、iPodがあったからこそ、ホップ・ステップ・ジャンプで実行できる力が備わったのではないかと思う。何かを成し遂げるために長くビジネスを続けることの重要性を感じた。

 自分も何かを作って世の中に影響を与える仕事をしたいと常々思っているが、製品を作って生活を変えるというのはこういうことかという原型を彼から学んだ。まだ10年しか経っていないが、リアルタイムでiPhoneが生活を変えていくのを見ている。本当にこんなことがあるんだと思った。