iPhone登場から10年。アップルが世界のモノ作りに与えた影響は計り知れない。
一見工夫の余地がないように見えるシンプルなiPhoneのフォルムだが、実はこれまでのデザインやモノ作りの常識を覆すような製造手法が多く採用されている。
その1つが、アルミニウム合金の塊を削り出して生み出すきょう体の製造手法だ。これまで、スマートフォンや携帯電話機、カメラやメディアプレーヤーなどの金属きょう体を作り出すには、金属の板を型に押し付けてプレスする成形手法や、金属を型に流し込んで固める製造手法が一般的だった。1つの型を使って、何十万というきょう体を製造するこれまでの手法は、コストパフォーマンスに優れている。
力技のデザインが巨大ブランド成長の原動力
一方アップルが発明した手法は、これまでのモノ作りの常識では「あり得ない」ものだった。1台数千万円もするロボットを万単位で導入し、1つ1つのきょう体をアルミの塊から削り出し、丁寧に磨き込んで作るというもの。当初は加工・研磨のノウハウが十分ではなく直線的な形状しか作れなかったが、次第に3次曲面を磨きこむノウハウを習得。iPhone 7シリーズのような丸い角をロボットで磨く技術を開発するなど、デザインの幅を広げてきた。
きょう体のデザインのために何千億円という投資を行い、これまでのモノ作りではありえないほど緻密で精度の高いデザインを生み出したアップル。それが他社の追従を一切許さない魅力を商品に与え、圧倒的な巨大ブランドに成長する原動力となった。
莫大な資金力を背景にした、力技のようなアップルのデザインはiPhoneだけに見られるものではない。例えば店舗や同社の新社屋のデザイン。建物全体がガラスだけでできたかのような構造を実現するために巨大なガラスが必要になる。その1枚を工場から現地に送るためにだけに1つのコンテナを占有するなど、膨大な輸送費を掛けて店舗を作り上げていく。こうしたコストをいとわないデザインが、アップルのほかにはできないオリジナルなデザインとなり、それがブランド力となっていく。