iPhoneが10周年を迎えたということで、日本の携帯電話市場の競争に及ぼした影響を改めて振り返ると、「NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯電話大手3社の明暗を左右した恐ろしい端末だった」の一言に尽きる。影響は端末メーカーや販売現場にも及んだ。そして、携帯電話大手3社は最終的には“アップル代理店”に成り下がった。厳しい見方かもしれないが、これは当事者の自戒の声でもある。

図1●携帯電話大手3社の純増数の推移。大手3社ともiPhoneの販売開始を契機に純増数を伸ばした
図1●携帯電話大手3社の純増数の推移。大手3社ともiPhoneの販売開始を契機に純増数を伸ばした
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ソフトバンクの独占販売で大手2社が煮え湯

 大手3社で最も恩恵を受けたのは、2008年7月に日本で初めてiPhoneの販売を開始したソフトバンクだ。当初はファンを中心に販売を伸ばしたが、勢いは徐々に失速。2009年2月に端末の実質負担額が0円となる「iPhone for everybodyキャンペーン」を始めたことが大きな転機となった。競合他社はiPhoneを軽視していたが、同キャンペーンがボディーブローのようにじわじわと効いてくることになる。

写真1●ソフトバンクモバイル(当時)は2008年7月にiPhone 3Gの販売を開始
写真1●ソフトバンクモバイル(当時)は2008年7月にiPhone 3Gの販売を開始
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 iPhoneは使いやすいことに加え、端末の実質負担額が0円なので初心者に打ってつけ。日本におけるスマートフォンブームの火付け役となったばかりか、「周りで使っているユーザーが多いから安心」という好循環を生み出した。iPhoneを利用している友人や家族の影響を受け、フィーチャーフォンのユーザーがどんどん乗り換えていく。当時、NTTドコモやKDDI(au)の幹部が「ソフトバンクではなく、iPhoneにやられている」とわざわざ名指しで悔しがっていたことを鮮明に覚えている。

 iPhoneを実質負担額0円でばらまき始めたソフトバンクもつらかったが、NTTドコモとKDDIはそれ以上の苦しみを味わった。Android端末で対抗しようにも、iPhoneより値段が高くては勝ち目がなく、実質負担額0円またはそれ以下で販売せざるを得ない。Android端末で新規の顧客を獲得しても、その傍らで既存顧客がiPhoneにどんどん流れていく。営業費用がかさむ割に効果が低く、効率の悪い戦いを余儀なくされた。

 実際、MNP(モバイル番号ポータビリティー)による転入出状況の推移を見ると、その様子がよく分かる。ソフトバンクはiPhoneの販売前から勢いが伸びていたが、販売後は上記のような効果が加わり、2010年以降は完全な独り勝ちだった。この状況はKDDIがiPhoneの販売に参入するまで続いた。

図2●携帯電話大手3社のMNP(モバイル番号ポータビリティー)転入出状況の推移。iPhoneの取り扱いの有無が大手3社の明暗を分けた
図2●携帯電話大手3社のMNP(モバイル番号ポータビリティー)転入出状況の推移。iPhoneの取り扱いの有無が大手3社の明暗を分けた
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