「データの加工に手間がかかる」「予測が外れてもAIは責任を取れない」など、企業のAI活用にはまだまだ課題が山積みだ。一方で「人知を超えた発見に結び付くかも」とデータサイエンティスト自身の期待も高まっている。
パイオニアも大阪ガスも、画像データの解析に深層学習を活用しているのですね。日本航空の場合はどうですか。
渋谷 画像データの話では、当社の場合、業務の効率化という目的ではなく、何か新しいものとか、人の力では分からないものを発見できないかということにチャレンジしているところです。最初に取り組んだのはチャットボット(バーチャルアシスタント)ですね。
2016年12月に「マカナちゃん」という、赤ちゃん連れのハワイ旅行を検討する人向けのチャットボットを出して、実際にお客様に使っていただきました。そのフィードバックをして、結構賢くなってきたんです。AIはこんなふうに使えるんだということを、我々自身がまず知ったという段階です。それはそれで成功したのですが、もっと他にも使えないかと議論しているところです。
人が気づかぬ「変数」を発見
すると、みなさんと同じく画像の話になりました。私の部署はウェブを使った販促をしているのですが、ウェブの宣伝の世界は結局のところ、出してみないと結果が分からないというのが実情なんですね。どういうバナーや広告を出し、どういうページ構成にすれば、お客様に刺さるのか。広告代理店と一緒になって、毎回試行錯誤しています。
そんなとき、バナー画像の蓄積が使えないかと考えたんです。バナー画像のデータベースとそれらのバナーの実績は全部分かっていますから、次に新しいバナーを作ったときにどれくらいの期待ができますよとか、この要素が効いているんです、みたいなのが出せるといいなと思いまして。
それはたぶん人には分からないんです。文字の大きさとか、金額を入れるとか、写真を使うとかくらいなら、人でもある程度は変数を作れるんですが、もしかしたら我々が全く気づいていないところ、例えばバナー枠の角をちょっと丸くした方がいいとか、そういう部分をAIが理解して示してくれたら、新しい知識や知見を得られるわけです。まだ検討段階ですが可能性を感じています。
原田 似たような話で盛り上がっているのが、写真共有アプリ「Instagram(インスタグラム)」のディープラーニングですね。利用者によってインスタグラムにアップする画像が全然違っていて、青系の写真が好きな人とか、食べ物の写真しかない人とか、明らかに風景ばっかりとか、ペットだらけとか。こういうのを学習して、適切な広告を出すといった「今から仕事になっていく分野」はたくさんありそうです。
写真撮影:村田 和聡