関連するニュースを見ない日はないほど、FinTechが盛り上がりを見せています。そのような中、ビットコインなどの仮想通貨が注目されていることもあり、銀行法や資金決済法等の金融法に関する議論は多くなされていますが、知財、とりわけ特許に関する議論はあまりなされていません。

 その一方で、近年、日本においても、FinTech関連の特許紛争が見られるようになってきました。そこで、今回から5回の連載で、FinTechビジネスと特許との関係についてお伝えしていきます。まずは、第1回目として、FinTechビジネスにおける特許の重要性を事例に基づき紹介します。

 そもそも、FinTechビジネスにおいて、特許は役に立つのでしょうか? 答えはもちろんYesです。まずは有名な事例を紹介します。

ワンクリック特許

 紹介する事例は、アマゾン(Amazon.com)のワンクリック特許です。ワンクリック特許は、昨今のFinTechブームよりはるか前の20年ほど前に出願されたものですが、FinTech関連特許の草分けと言えます。

ワンクリックボタン
ワンクリックボタン
(出所:https://www.amazon.com)

 アマゾンのワンクリックシステムは、利用した人も多いでしょう。一般的なオンラインショッピングでは、(1)商品をカートに入れる、(2)カートの中身を確認して決済を実行する、という2ステップで注文が完了するのに対して、ワンクリックシステムでは、1回のクリックで注文が完了します。

特許出願と提訴、和解の流れ
特許出願と提訴、和解の流れ
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 上図に示されているように、アマゾン(1994年設立)は、1997年にワンクリックシステムをリリースする際に、特許出願をしていました。その後、1998年に、米国で最大の書店チェーンであるバーンズ・アンド・ノーブル(B&N)が、アマゾンの後を追うように、「Express Lane」という1回のクリックで注文が完了するシステムをリリースしたのです。

 アマゾンはこれを黙っていませんでした。アマゾンは、1999年に特許が登録されるとすぐにB&Nを特許侵害で訴えたのです。地裁は、この提訴から約40日という短期間で、B&Nに対して、仮差止命令を出しました。

 これにより、B&Nは、注文完了までに2回のクリックが必要なシステムに設計変更せざるを得なくなったのです。アマゾンのワンクリック特許は、業界に知れわたり、アップルもライセンスを受けました。