KDDI(au)は2016年5月に発表した中期経営戦略で「国内通信事業の持続的成長」「au経済圏の最大化」「グローバル事業の積極展開」の3つを今後の柱に掲げた。このうち、au経済圏の最大化については、通信企業からライフデザイン企業への変革を目指すとした。KDDIの高橋誠・代表取締役執行役員副社長に、新しい戦略の狙いや今後の課題などを聞いた。

(聞き手は榊原 康=日経コミュニケーション

KDDIの高橋誠・代表取締役執行役員副社長
KDDIの高橋誠・代表取締役執行役員副社長
写真:新関 雅士
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ライフデザイン戦略を打ち出した狙いは。

 通信だけでは厳しい時代になった。端末でも料金でも差異化が難しく、足元では格安スマホの勢いが伸びている。「パーソナル事業」と「バリュー事業」(コンテンツや決済などで構成)が一体となってサービスの価値観を表現する時代を見越してライフデザイン戦略を打ち出し、全社一丸で取り組んできた。順調に立ち上がってきており、あとはスピードアップを図るだけだ。

ライフデザイン戦略を構成する要素は多岐にわたるが、最も注力する分野はどれか。

 個々の要素はともかく、au経済圏の拡大に向けた連携のほうが重要になる。まず2014年5月に「au WALLET」でポイントを中心とした仕組みを立ち上げ、2016年8月に始めた「au STAR」で顧客接点を再構築した。今後は顧客との密着度をいかに高められるかが勝負で、au STARはその柱になる。au STARのポイントやバリューをauライフデザイン(通信、電気、保険など)とコマース事業に循環させていくことを意識して取り組んでいる。

「au経済圏」を前面に打ち出すと、auの顧客でなければメリットがないように見え、他社のユーザーを取り込みにくくならないか。

 実は垂直統合できっちり作り上げる「au経済圏」と、auの顧客以外にアプローチする戦略を分けて考えている。後者のオープン型も様々な取り組みを進めており、例えば広告事業やメディア事業などを展開するSupershipが挙げられる。ビッグデータを活用した分析を繰り返してリアルタイムに広告枠を入札する仕組み「RTB」(Real Time Bidding)を構築し、モバイル系アプリ向けに展開中である。auの顧客だけでなく、すべてのユーザーにアプローチする仕組みであり、極めて順調に伸びている。将来的にはauの顧客を伸ばすような効果も期待している。

 コマース事業もオープン型で展開したいという思いがあり、1月11日に「Wowma!」を発表した。セレクトショップとして「au WALLET Market」を展開しているので名前を近づけたほうがいいという議論もあったが、やはりコマース事業はオープンに打って出たい。auのブランドカラーは残しつつ、「驚きのあるマーケット」(Wow market)を作るというコンセプトで名前を決めた。auの顧客にはWALLET ポイントを付与するが、au以外の顧客にはWowma! ポイントを付与する。Wowma!は完全なオープン型だが、auに入ると「よりいいな」という方向にもっていきたい。

 IoT(Internet of Things)もオープン型に位置付けられる。当然、auブランドでも商材を出していくが、メインになるのはどう考えても「BtoBtoC」。我々はあくまでインフラやプラットフォーム提供者としての立ち位置になる。

このタイミングでコマース事業に力を入れる理由が分からない。

 これまでは力を入れたくても苦労していた。今回、DeNAから事業の譲渡を受けられたため、本格的に力を入れていく考えだ。我々の最大のアセット(資産)は、「au STAR ロイヤル」や「au STAR ギフト」で還元したポイントやバリューがプールされていること。年間1000億円には届かないが、700億円や800億円といった規模になる。これをベースにコマースを広げていくことになり、我々のフィールドで利用してもらったほうが絶対にいい。

アマゾン・ドット・コムや楽天に対抗していくのか。

 日本に限らず全世界で共通する話だが、通信事業者はまさに「ダムパイプ」に成り下がってしまうのか、あるいは「スマートパイプ」になっていくのか、の岐路に立っている。我々はこれまでもOTT(Over The Top)のサービスに取り組んできたが、この部分は自らきっちり作り上げないといけないという強い思いがある。もっとも、OTTのプレーヤーと全面的に喧嘩するつもりはなく、決済などでも手を組んでいる。ただ、我々のフィールドはしっかり残して拡張していきたい。