NTTドコモは2015年4月に発表した中期経営戦略で「通信事業の早期回復」と「協創による価値創造」を掲げた。従来の顧客獲得競争から脱却し、様々なパートナーとのコラボレーションで新たな付加価値を創造する「+d」の取り組みを推進していくとした。2015年12月に刷新した「dポイント」は+d構想の基軸と位置付ける。NTTドコモの阿佐美弘恭・代表取締役副社長に、+dとdポイントの狙いを聞いた。

(聞き手は榊原 康=日経コミュニケーション

写真●NTTドコモの阿佐美弘恭・代表取締役副社長(撮影:新関 雅士)。
写真●NTTドコモの阿佐美弘恭・代表取締役副社長(撮影:新関 雅士)。
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+d構想の狙いを改めて聞きたい。

 将来に向けたNTTドコモのアセット(資産)を考えると、安全・信頼のネットワークは当然として、最も重要なのは顧客基盤になる。名前や住所、年齢をはじめ、口座番号やクレジットカード情報も預かっている。それも契約時に確認済みの信頼度の高い情報だ。例えばNTTグループを見渡すと、NTT東西も同様な顧客基盤を保有していると言えるが、あくまで家庭にひも付いたものになる。家庭内を含めたパーソナルベースの顧客基盤を押さえていることは非常に価値がある。

 2011年にスマートフォン向けの「dメニュー」と「dマーケット」を始めた。前者はiモードの受け皿となる料金回収代行ビジネスに対し、後者はNTTドコモの直営で基本的に収益を100%計上し、購買や利用履歴も我々が保有できる。当時と考え方は変わっておらず、ビッグデータを着実に蓄積しながら具現化してきた。

 ただ、上位レイヤーのサービスは多岐にわたる。スマートフォンの進化に伴い、実現できることも広がってきた。我々だけで取り組める範囲には限界があり、様々なプレーヤーとコラボレーションすることでサービスを広げ、顧客の要望に応えていくという素朴な考え方が+dになる。回線契約に縛られることなく、様々なパートナーと協創を進めており、我々が世の中に接する表面積を確実に増やしている。

dポイントはどういう位置付けになるのか。

 次のステップの話になる。以前は顧客を回線契約にひも付けて電話番号で管理していたが、現状では大半のサービスをキャリアフリーで展開している。これまでの「契約者」という概念を「会員」に変えていこうとしている。回線契約に関係なく、「NTTドコモの会員であることが心地良い」という方向に持っていきたい。

 会員の概念を明確にするため、docomo IDをdアカウントに切り替えた。dアカウントを取得すると、自動的にdポイントの枠ができる。dアカウントで横串することに意味があり、様々な場面でdポイントを使えるようにしていく。我々の発行ポイントは他社に比べて大きい。毎月の通信料金でたまるので当然だが、それだけ発行しているのであれば、より価値を高めていくことが重要。使える先もたまる先も増やし、dポイントは便利と感じてもらえるように変えていかなければならない。

 実際には+dで様々なプレーヤーと組んで実現していくことになるため、「ドコモ」の名称は前面に押し出さず、一歩引いた。ただ、完全に隠れるわけではなく、NTTドコモの「d」と誰でも分かる。バランスの良いネーミングだと思う。

ポイントの付与額が大きい点はKDDIやソフトバンクも同じだ。

 dポイントは競合他社で使えず、我々と回線契約している顧客に最も多くのポイントが付与される。ポイントの価値を高めていけば、結果的に契約を維持してもらえる。一方、回線契約なしで様々なサービスに契約している顧客もカバーしていかなければ顧客基盤が広がらない。実際、回線契約にこだわっていると、国を越えられない。海外在住の日本人にd系サービスを提供できないことになる。

 総務省の指針などもあり、MNPは沈静化していく方向にある。携帯電話の顧客基盤という点では、1カ月や2カ月の短期間でそれほど動かない市場になってきた。では、どうやって顧客を拡大していくか。これまでも複数台の利用などで「契約数」は増やしてきたが、「顧客数」を伸ばすことは非常に難しくなってきている。回線契約に縛られず、顧客の定義を見直すことでどんどん伸ばしていきたい。

 あとは、+dを通じて顧客から見える世界観をどう作り上げていくか。楽天であれば「楽天経済圏」。我々は経済圏と呼んでいないが、「生活圏」のような概念は当然持っている。+dの発想で新しい価値を生み出し、すべてをdアカウントとdポイントで串刺しすることで、顧客にとってもすべてつながっている世界を作り上げていく。