ソーシャルレンディング市場が注目を浴びている。投資額は2016年に533億円と前年から約70%増加し、今年は初めて1000億円に迫る見込みである。

 ソーシャルレンディングとは数万円程度の少額から安定した資産運用をしたいと考える個人と、資金を借り入れて事業を拡大させたい企業とをインターネット上でマッチングするサービスを指す。市場拡大の背景には、超低金利下で安定した資産運用を求める個人が増えていることに加え、優良な借り手であっても銀行などの伝統的な金融機関から融資を受けにくい“ミスマッチ”がある。

 銀行はバブル崩壊や金融危機後の不良債権処理の過程で審査が硬直的になり、魅力的であってもマニュアルや前例に無い事業に融資しにくくなった。都内の不動産事業者は「シェアハウスは人気があり通常のマンションより利回りが高いが、融資してくれる銀行は第二地銀以下のわずかなプレーヤーに限られる」とこぼす。また、一般的に銀行は、バイオマスや風力発電などの再生エネルギー発電所プロジェクトに対しては発電が開始されるまで融資しないため、建設資金を銀行融資で賄いにくい。

 銀行融資を補完する存在の貸金業者は、10年前には1万4000社ほどあったが、現在は2000社に満たず、貸金業者による事業者向けの貸出残高は過去10年間で半減した。ソーシャルレンディング事業者は新規参入で身軽なため、シェアハウスや発電所建設でも審査のうえ、返済能力が十分あると認められれば融資できる。このようにミスマッチの一部をソーシャルレンディングが埋めている状況だといえる。

 課題が無いわけではない。例えば、ソーシャルレンディングを想定した法規制が十分ではない。ソーシャルレンディングは投資家保護を目的とした金融商品取引法と、主に借り手の保護を目的とした貸金業法にまたがって運営されているが、特に融資先の情報をどの程度開示すべきかという点で矛盾が生じおり、明確な規定がないのが現状である。この曖昧さは、投資家と事業者双方にとって、困った事態を生み出している。

 この曖昧さを逆手に取ったともいえる事件も発生している。新興ソーシャルレンディング事業者であるみんなのクレジットに対し、金融庁は2017年3月30日、1カ月間の業務停止命令を含む行政処分を下した。管理体制の甘さに加え、融資先について投資家の誤解を招くような表現でファンドを募集していた点が指摘されている。

 ソーシャルレンディング発祥の国である英国では、規制当局が「顧客の情報ニーズを適切に考慮し、明確かつ公正で誤解を招かない方法によって情報を伝達しなければならない」という原則を示している。ほかにも、事業者倒産時の投資家の扱いや、事業者の資本規制などを明確にしていくことで、国内でも投資家からの信頼が得やすくなると考えられる。

 お金を必要とする事業者にお金を回し、一方で個人が資産運用することで老後の余裕資金を増やすことができるのであれば、経済成長と老後問題という日本が抱える二大課題の解決にもつながる。ずさんな管理体制は許されるべきことでないのは当然だ。これを機に業界全体のガバナンスや規制の明確化も含めて、「雨降って地固まる」となることを願ってやまない。

※ このコラムは、識者の談話を基に構成した記事です。