住宅宿泊事業法案、いわゆる民泊新法に関する議論が白熱している。

 自宅の空き部屋を旅行者に、彼らの自宅であるかのように滞在してもらうことがホームシェアの本質になる。「パリでは、異邦人もくつろいで暮らすことができる。なぜなら、その街で自身の家にいるかのように暮らせるからだ」。ドイツ出身の哲学者であるハンナ・アーレント氏が1968年10月19日、ザ・ニューヨーカーの誌面にこう記したことが思い出される。

 旧来の事業モデルでは、効率の追求が第一となるため、安全、快適などの投資が不十分になる危険が想定されてきた。消費者保護のために、旅館業法のような厳しい規制が設けられてきたことにも、一定の合理性がある。

 だが、典型的なホームシェアに用いられるような個人の住宅は、純粋に事業のための設備とは異なり、規制の有無に関わらず、また、効率性にあまりこだわらず、所有者や管理者自身(ホスト)の満足と安心のため、豊かな投資がなされるもの。むしろ、普段そこに住んでいる私たち自身の、安全、快適、安心のための投資をさらに促進し、その成果である良好な環境を旅行者とシェアすることこそ、我が国の豊かさを旅行者に体験していただける基盤となるはずだ。

 そして、ホストと旅行者をつなぐプラットフォーム事業者は、ホスト、旅行者、規制当局、いずれのエージェントでもない中立的な立場を堅持するからこそ、その提供する情報の信頼性が高まる。

 厳格な規制といえども、当局が事業者を常時監視することは現実的ではなく、事業者自身の自律に負うところが、どうしても大きくなる。その結果、優良な状態が維持されている施設や設備もある一方で、老朽化した危険な施設や設備、あるいは無理な運用が痛ましい事故を招くケースも後を絶たない。

 この問題は、当局に代わり私企業に監視をさせようとしても、何ら変わることがない。むしろ、中立的なプラットフォーム事業者を通じて、ホスト側からも、ゲスト側からも、あるいは、地域からも、豊富な情報が提供され、シェアされることこそ、安心、安全への近道と言える。

 民泊新法は、我が国のシェアリングエコノミーを育むための重要な第一歩となる。法案が指し示す未来が、政省令や条例によって阻害されないことを期待している。

※ このコラムは、識者の談話を基に構成した記事です。