東京五輪を目前に、国内で増加する訪日外国人、そして在住外国人の多言語医療ニーズに対応するため、私たちは電話を通じて医療通訳を提供するという活動を、ここ2年ほど続けている。今では全国300カ所以上の医療機関で、医療従事者と外国人患者の間の会話を、医療通訳者が電話でサポートしている。利用する診療科は様々で、最近では1時間に及ぶ難度の高いケースも少なくない。

 私たちの社会で医療通訳者の数は限られている。困っている人々を助けたいという一心で活動を続ける医療通訳者たちの志、困っている人の心に寄り添う優しい心、そして、専門的で難解な分野で諦めることなく学習をし続ける情熱によって、この社会は支えられてきた。患者、医療従事者、医療通訳者の三者がそれぞれに抱える課題に対し、事業としてシステムを構築することで持続的な解決手法を提示したいという思いが、私たちが活動を続ける力の源だ。

 チームとして対応するケース数が増えるにつれ、医療通訳が発生する場面は、主に受付、診察室、会計、救急の4つのシーンに分類できることが分かってきた。内容を分析すると、会計以外のシーンで発生するのは、患者の症状についてのヒアリング。診療科を判断するため、受付でも症状を確認する。診察室では治療方法の説明や同意についての通訳が入る。受付では保険の有無の確認、会計では支払い金額と支払い計画についてが多い。救急では上記のほぼすべての項目に関わる通訳が入ることになる。

 通訳内容の分析を通じて私たちが模索するのは、限られた数の医療通訳者の活動に資するテクノロジーの介入場所だ。例えば、症状ヒアリングや治療方法の説明、同意取得は、疾患によるものの、医療通訳者の介入が求められるケースが多い。患者の容態によってはヒアリングや同意取得には、言語だけでなくほかのメディアを用いた情報提供も有効だ。私たちは医療現場での様々な状況や言語コミュニケーションの内容を蓄積しており、豊富なデータがある。AI(人工知能)によって用語やフレーズ、文脈を踏まえた情報を提示し、患者と医療従事者のより深い相互理解を支援できると見て、既に開発に着手している。

 私たちが実現したいのは、医療現場で真に貢献するテクノロジーの創出。高い能力を持つ限られた数の医療通訳者が、彼らがなくてはならない場面で、医療チームと共に生き生きと患者のために活動する姿を実現することである。

※ このコラムは、識者の談話を基に構成した記事です。