産業技術総合研究所は2018年初頭から、深層学習(ディープラーニング)など人工知能(AI)技術の研究に特化したコンピュータ基盤「AI橋渡しクラウド(ABCI)」を稼働させる(関連記事:60億円超を投じる政府のAI専用スパコン計画、狙いは「一人1ペタFLOPS」)。

 ABCIの調達に関わる東京工業大学(東工大)情報理工学研究科教授の松岡聡氏は、このABCIの一部をAIチップの実験向けに開放する考えという(AIチップの開発については第1回第2回参照)。

 国内外のAIチップの開発動向や、米グーグルなど海外勢に対抗するエンジニア支援戦略などについて松岡氏に聞く。

(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ



ABCIに、CPUやGPU(画像処理チップ)など汎用プロセッサ以外のAIチップを導入する可能性はあるか。

 ABCIのハードウエアの1割以下に、AIチップを実験的に取り入れる仕組みを作りたい。深層学習の演算を加速できるFPGA(回路を再構成可能な集積回路)やASIC(特定用途向け集積回路)などだ。PCIeカードの空きスロットを用意し、AIチップを載せたアクセラレーターボードを装着できるようにする。

東京工業大学 情報理工学研究科 教授の松岡聡氏
東京工業大学 情報理工学研究科 教授の松岡聡氏
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 AIチップのメーカーにとっても利点がある。ABCIには、AIの学習に必要なデータが集まる。最先端の深層学習フレームワークと性能を比較することもできる。

 近年は国内企業からも、富士通が開発する深層学習向けプロセッサ「DLU(Deep Learning Unit)」など、深層学習の演算を加速させるAIチップの提案が出てきた。日本か海外かを問わず、AIチップを受け入れたい。

脳の神経細胞の模倣に焦点を当てた「ニューロモーフィックチップ」についてはどうか。日本ではNECが東京大学と組んで開発を宣言している。

 日本は、ニューロモーフィックチップの研究では相当遅れている。海外には、既に10件ほど研究プロジェクトがある。日本は、脳の理学的研究は盛んだが、ニューロモーフィックチップでは出遅れた。

 ただ、ニューロモーフィックチックは、ニューラルネットで分類・予測を行う「推論(inference)」の省電力化には適する一方、ニューラルネットにデータを与えて鍛える「学習(training)」には適さないように思う。ABCIは学習に焦点を当てており、チップを組み込む環境として最適ではないかもしれない。例えば、米IBMが開発するニューロモーフィックチック「TrueNorth」は、チップ単体での学習は諦め、学習処理は汎用スーパーコンピュータ(スパコン)で行っている。