「運用中のシステムに障害が発生」「利用部門から追加の要求が出てきた」―。IT現場では、突発的な課題が生じやすいい。その対処に当たるメンバーは、本来従事する業務とマルチタスク状態になる。こうしたマルチタスク状態に手を打つかどうかで、IT現場の明暗が分かれる。

事例6
最優先課題に集中、他は任せる
富士通ミッションクリティカルシステムズ 船木克己氏らのチーム

 従来のやり方では、長時間残業をしても納期を数カ月オーバーしかねない超難関プロジェクト。それを従来の半分の残業で間に合わせた―。

 こんな実績を上げたのは、富士通ミッションクリティカルシステムズの船木克己氏(第四ソリューション事業部 第二ソリューション統括部 第一ソリューション部 部長)らのチームである。2014年5月に稼働させた、金融機関の新基幹システムの構築プロジェクトでそれを成し遂げた。

 船木氏らは同プロジェクトの期間中、さまざまな工夫を取り入れた。中でも効果的だったのは、悪いマルチタスクを排除する仕組みだった。

 具体的には、プロジェクトの計画時点では想定しにくい、突発的な課題の対処方法を変更した。突発的に発生する課題は通常、緊急度が高く見え、目の前の業務を中断して対処するケースが少なくない。しかしこの中断こそが悪いマルチタスクを生み、生産性の低下につながっていた(図7)。

図7●突発的な課題を客観的に評価して対処する順番を決める
図7●突発的な課題を客観的に評価して対処する順番を決める
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 この悪いマルチタスクは、残業を増やす要因にもなっていた。各メンバーは通常の業務を抱えており、課題解決で割いた時間を残業で穴埋めしていたのだ。さらにマルチタスクは、それぞれの業務を切り替えるタイミングでロスが発生し、効率を低下させる。

 課題解決を優先して中断した業務が、スケジュール全体を決定するクリティカルパス上にある場合、事態はさらに深刻だ。中断した業務によって、スケジュール全体が遅延する。船木氏らのチームでも、過去にこうした状況に陥るケースがあったという。

ツールで客観的に優先順位を決める

 そこで今回のプロジェクトでは、スケジュール全体に影響を及ぼす課題を集中的に対処する方針を立てた(図7右)。具体的には、突発的な課題について、プロジェクト全体で事前に確保した時間的余裕(バッファー)をどれだけ消費するかに着目。この消費バッファーの大きさによって、各課題に優先順位を付けるようにした。

 船木氏らが導入した仕組みは、プロジェクト管理手法であるCCPM(Critical Chain Project Management)をベースにしたもの。バッファーの消費量は、米Realizationのプロジェクト管理ツール「CONCERTO」で算出した。「客観的な評価で優先順位が決まるため、メンバーの納得感は高い」(船木氏)。

 このように決まった最優先の課題を、特定のメンバーが専任で対処する。他のメンバーは、最優先の課題に取り組むメンバーの他の業務を支援する。最優先の課題に取り組むメンバーが、マルチタスクにならずに済む工夫である。こうした仕組みによって、超難関プロジェクトを残業に頼らない形で成功に導いた。