ブラックIT現場にしないためには、リーダーの無茶振りを防ぐ仕組みもぜひ用意しておきたい。SCSKのリーダーの現場が参考になる。

事例5
負荷の可視化で無茶振り防止
SCSK 三輪 東氏らのチーム

 SCSKで証券会社向けのシステム開発・運用を手掛けるチームのマネジャー、三輪 東氏(金融システム事業部門 金融システム第三事業本部 証券システム第一部長)はかつて、長時間残業を巡る苦い経験を味わった。

 当時、利用部門から納期が厳しいシステム開発案件を持ちかけられた。三輪氏は開発に入る前に利用部門のキーパーソンと協議。「納期優先でプログラムの品質にはある程度目をつぶる」「仕掛かり中の別業務のスケジュールは延長する」といった合意を得た。これらの対策を講じた上で、チームの開発生産性と開発規模を比較。「かなり厳しいが、期日には間に合わせられる」と三輪氏は判断した。

 だが、いざプロジェクトが始まると誤算続きだった。計画した工数は守れるものの、業務の負荷が特定のメンバーに集中しており、スケジュール上は間に合わなくなっていた。レビュー担当のメンバーは長時間残業を余儀なくされ、疲れの影響などでレビュー精度も下がった。結果、後工程で不具合がいくつも見つかり、現場は混乱。結果として多数のメンバーが膨大な残業をせざるを得なくなった。

 プロジェクトの期間中、チーム全体の平均残業時間は平常時の3倍に達した。期日には間に合わせたため、利用部門からは高く評価された。それでも三輪氏は「メンバーに二度とつらい思いをさせたくない」と固く誓った。

「見込み業務」を含めて負荷を確認

 そこで三輪氏らのチームは、各メンバーの負荷状況を可視化するツールを自前で開発した(図6)。各リーダーはこのツールを駆使して、メンバーに残業させてしまう過重な負荷を与えないように気を配っている。

図6●各メンバーの負荷状況をツールで可視化
図6●各メンバーの負荷状況をツールで可視化
(出所:SCSK)
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 このツールでは、各メンバーが1週間にこなせる業務量の上限を「5.5人日」と設定している。リーダーがこの上限値を超過する業務量をアサインすると、その週は赤色で表示される。

 赤の表示が出た場合、リーダーは該当するメンバーの業務内容を詳しく確認し、他のメンバーが担当できる業務があれば担当を変更する。担当を変更できる業務が全くない場合は、スケジュールの見直しなど、別の対策を考えることになる。

 また、三輪氏らのチームは進行中の業務だけでなく、まだ受託していない案件で発生する可能性が高い「見込み業務」の量もツールに登録している。「各メンバーの将来を含めた業務負荷状況をきめ細かく把握できるようになり、業務量を平準化しやすくなった」と三輪氏は話す。

 業務量を平準化し、無謀なアサインがなくなったことが残業削減につながっている。三輪氏らのチームの2013年度の年間平均残業時間は、負荷状況を可視化するツールを活用する以前から約2割削減できた。これと歩調を合わせるように、業務で発生する不具合も約15%減ったという。