目の前の業務は山積み。今日も残業しないと終わらない。残業ゼロなんてできるわけがない。そう考えているITエンジニアが多いかもしれない。だが、そんな現場はもはや、「ブラックIT現場」と呼ばれても仕方ない。残業ゼロはもはや無理という話ではない。IT現場が今取り組まなければならない最大のテーマである。

 IT現場が残業ゼロを実現すべき理由は大きく四つある(図1)。第一の理由は、ワークライフバランスに対する社会の要請だ。ワークライフバランスとは、仕事(ワーク)と生活(ライフ)の調和(バランス)を意味し、その両方で充実感を持てる人生を送れるようにすることだ。ワークライフバランスを実現する前提として、仕事上の長時間残業の解消が不可欠となる。

図1●IT現場が残業ゼロに取り組むべき理由
図1●IT現場が残業ゼロに取り組むべき理由
ワークライフバランスに対する社会の要請に応えることはもちろん、メンバーのためにも、IT現場のリーダーは残業ゼロに力を入れたい
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 そもそもワークライフバランスの考え方は、2007年12月に関係閣僚、経済界、労働界、地方公共団体の代表から成る官民トップ会議において「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」として策定された。以後、IT業界を含む多くの業界で、その考え方が浸透してきた。

 最近になって、政府はワークライフバランスをいっそう推進するようになっている。例えば厚生労働省は2016年9月から「仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会」で、ワークライフバランスを実現するために残業時間の規制について議論中だ。時間的な制約を受けやすい女性や高齢者など、多様な人材が仕事で活躍できるようにするためだ。こうした社会の要請がある以上、IT現場も積極的に応える必要がある。

 残業ゼロに取り組むべき第二の理由は、メンバーの健康管理である。長時間残業が続くほど、メンバーが心身の健康を損ねるリスクが高まる。

 事実、2014年8月には裁判に発展した事例が話題になった。中堅ITベンダーに入社した20代のITエンジニアのAさんは、1カ月間に及ぶ研修期間をすべて無給で過ごし、その後配属された現場では長時間残業を強いられた。その上、この残業も200時間までは「みなし残業」とされ、残業代は払われなかった。そしてAさんは健康を害して退職。所属していた企業を相手取り、損害賠償を求める訴訟を起こした。

 長時間残業の影響でメンバーが離脱すれば、他のメンバーの業務負荷も増加し、健康リスクがさらに高まる。このような負の連鎖を防ぐためにも、残業ゼロを目指したい。

 第三の理由は、育児や介護などに追われるメンバーの増加である。「通常の業務時間で終わらない分は、残業で何とかすればよい」という仕事の進め方を取れないメンバーが増えている。情報サービス産業協会(JISA)の手計将美氏(事務局次長 兼 広報サービス部長 兼 企画調査部長)は、「人材の多様化を進める上で、残業削減は不可欠」と指摘する。

 近年のIT現場は慢性的な人手不足である。だからこそ残業をなくし、育児や介護などの事情を抱えるメンバーが活躍しやすい環境を、会社やリーダーが率先して作る必要がある。

 メンバーの社外活動の促進。これが第四の理由だ。ITエンジニアは本来、知識・見聞を広げるために積極的に社外活動に取り組むべきである。しかし、残業続きで時間を確保できないと悩むITエンジニアが多い。残業をなくせば、この悩みを解消できる。社外に出てスキルを磨くメンバーが増えれば、チーム力も高まる。

 これら四つの理由から、チーム一丸となって残業ゼロを目指し、ブラックIT現場と決別することは待ったなしの状況といえる。