「デジタルイノベーションを起こせと社内で号令がかかり、ワイガヤで議論したが答えが出ない。そこで相談にやって来る」。新日鉄住金ソリューションズ 技術本部 イノベーティブアプリケーション研究部の斉藤康弘 上席研究員は、デジタル化で苦戦するユーザー企業の事情をこう話す。

 従来型の案件では、ユーザーのRFP(提案依頼書)に基づき、納期通り、いかに品質の高いシステムをコストを抑えて作れるかがSIベンダーの価値だった。

 ところが、これまでにない新たなサービスやビジネスを生み出そうという「デジタル案件」にRFPはない。ユーザーと協業し、アイデア創出からPoC(概念検証)などを経て、事業化につなげる新たなSI力が求められる。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の例で、デジタル案件の進め方を見よう。

アイデア出しからプロトタイプへ

 CTCは2017年4月に新組織「未来技術研究所」を設置し、ユーザー企業のデジタル変革を支援する体制を整えた。ビジネス開発を担う「事業創出チーム」、およびアジャイル開発部隊「イノベーションテクノロジーセンター」で構成する。

ユーザーと協業し新サービスを生み出す
ユーザーと協業し新サービスを生み出す
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 アイデア創出フェーズでは、ユーザーと基本3回のワークショップを通じて、アイデアを出す。その中では「デザイン思考やブレインストーミング、マンダラートや樹形図など様々な手法を目的や参加者によって使い分けている」(CTC 未来技術研究所 事業創出チーム 共創ビジネス推進課の渡邉健一郎プロデューサー)。

 アイデア創出後にCTCが行う大切なプロセスが、事業企画の評価だ。「ビジネスモデルキャンバスと呼ぶ手法で、サービス内容やターゲット、独自性や提供方法、収入といった9つの視点から、収束させたアイデアがビジネスとして成り立ちそうかどうか見極める」(渡邉プロデューサー)。

 これで行けそうだと判断したら、プロトタイピングに移る。「ストーリー収集ワークショップを通じて、登録、購買、支払いといった顧客がサービスを利用する流れを洗い出す。付箋などに書き出した機能は優先順位を付けて実装していく」(CTC 未来技術研究所 イノベーションテクノロジーセンター デジタル・エクスペリエンス・ラボの丸山貴嗣氏)。

 CTCのプロトタイピングは1週間単位でスプリントを回し、ユーザーのフィードバックを得ながら、完成度を高める。「この機能があったら顧客はうれしいという気付きがある一方、実はいらなかったという機能も出てくる」(丸山氏)。

 プロトタイピングの結果、事業化すると決めたら、本格的な開発に向けて体制を整える。