軸を描くことができたら、後は軸の確立にまい進する未来の自分のために、今何をすべきなのかを考える。具体的には、「なるべきITエンジニア像」「業績達成」「組織作り」という三つの側面から、勉強すべきことや準備すべきことをあぶり出す。これら三つの側面について、見ていく。

 まず、「軸」を実現する上で中核となるITエンジニアは、どんな人なのかを考えよう。検討材料として、情報処理推進機構(IPA)が定めているITSS(ITスキル標準)を活用するとよい。目標感を持ったり、必要な能力を確認したりするための「リファレンス」としても有用だ。

 ITSSの「レベルと評価の概念」によれば、「リーダー」とはレベル5以上の人材を指す。このレベル感を踏まえ、自分が目指す分野の「職種の概要と達成度指標」および「スキル領域とスキル熟達度・知識項目」を参考に、自分の目指すITエンジニア像を浮かび上がらせる(図3)。同時に、どのようなスキルが必要なのかを認識しておく。

図3●ITSSを活用して「なるべきITエンジニア」像を浮かび上がらせる
図3●ITSSを活用して「なるべきITエンジニア」像を浮かび上がらせる
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業績目標の達成には準備が必要

 リーダーには、業績目標が課される。技術志向の強い人には、業績目標は邪魔な存在に映りがちだ。しかし、リーダーにとって業績目標の達成は極めて重要なことである。

 業績目標を達成できているリーダーは、リーダーになる前からいろんな手を打っていることが多い。例えば、ITベンダーのリーダーなら、毎月一定の利益が出る運用アウトソーシング案件を持っていると目標達成が格段に楽になる。業績目標を達成できていないリーダーからは、「おいしい仕事」を持っているラッキーな人のように見える。しかし実際は、以前から意図的に持つようにしていたのである。

 リーダーとしてどの程度の規模の業績目標を持つべきかについても、ITSSの「職種の概要と達成度指標」に具体的な数値が示されている。参考にするとよいだろう。

 財務・管理会計の基礎、マーケティング・営業、顧客折衝・交渉、利益を生むための仕組み作りなども一通り身に付ける必要がある。私の実感では、書籍や通信講座よりもリアルな研修の方が役に立つように思う。年に一つでよいので、研修に参加できるように計画すべきだろう。

組織マネジメントと人材育成

 組織作りのための勉強も大切である。その中でも、組織マネジメントと人材育成は絶対に欠かせない。

 組織マネジメントに関する参考書や研修は充実しているので、いくつかを選んで継続的に学ぶとよい。一つのコンテンツに頼るのではなく、数種類のものに触れる。続けていると、どれにも共通していることが見えてくる。それが組織マネジメントの本質である。

 人材育成に関しては前述の業績達成と同様、リーダーになる前から準備しておくことが望ましい。資格試験や技術習得のための勉強は欠かせないが、その勉強をしながら後輩がポイントを学べるような資料を作ることを心掛けよう。後輩のためだけではなく、自分にも役に立つ。まとめることで理解が曖昧な部分が解消される上、記憶が定着しやすくなる。論理性も高まる。