リーダーの大事な資質を三つ説明した。では、どのようにすればそれらを身に付けられるのか。必須項目を洗い出し、片端から勉強して習得すればよいと思うかもしれないが、それはうまいやり方ではない。目標・目的が明確でないと、続かないからだ。

 受験でも資格試験でも、当面の目標は合格だろう。ただし、その裏には入学あるいは資格を取得して「何かをやる」という真の目標・目的がある。

 リーダーになるというのも、当面の目標でしかない。勉強を始める前に、リーダーになって何をやりたいのかを明確にイメージする必要がある。このイメージがないと、せっかくの勉強が薄っぺらなものになってしまうし、途中で挫ける原因にもなる。

 私はかつて、なりたい自分を具体的なイメージとして描くためのワークショップを開催していた。そのワークショップでの試行錯誤を通じて、三つのステップを踏むと、なりたい自分を見つけられることが分かった。その3ステップを応用し、「なりたいリーダー像」を描く方法を紹介する。

最初に仕事をする理由を考える

 図2は「なぜ」(情熱の源泉)、「何を」(提供価値)、「誰に」(市場)を明確にせよ、という内容だ。これがなぜ「リーダー像」なのかと、疑問に思われた読者がいるかもしれない。冒頭に記したことを思い出していただきたい。これからのリーダーに求められるのは、「主体的にビジネスを創造していく」ことだと。それには、これら三つの観点が不可欠なのである。

図2●三つのステップを踏み、なりたい自分のイメージを描く
図2●三つのステップを踏み、なりたい自分のイメージを描く
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 偉大なリーダー、例えばスティーブ・ジョブズはこの三つが明確だった。「なぜ」「誰に」については『全宇宙をあっと言わせてやりたいんだ』、「何を」については『私はアップルの経営を上手くやるために仕事をしているわけではない。最高のコンピュータを作るために仕事をしているのだ』との語録が雄弁に物語っている。

 前述のワークショップでは当初、「誰に」「何を」「なぜ」の順番で考えていった。しかし、「誰に」「何を」をいきなり言葉にできる参加者は1割にも満たなかった。ほとんどの人は最初に「なぜ」を考え、それが分かって始めて「何を」「誰に」を明確にできた。その経験を踏まえ、途中からは「なぜ」「何を」「誰に」の順番で考えるように軌道修正した。

 これにならい、まずは仕事をする理由(情熱の源泉)を考えていただきたい。考える観点は大きく四つある。「実現したいこと」「強烈な体験」「得意なこと」「憧れの人」である。これらについて挙げられるだけ列挙してみて(挙げられない観点があっても構わない)、その中で一番心に引っかかる点について理由を考えていくと見つかるはずだ。

 現在、スマホから使えるクラウドベースの通信機構の開発に取り組んでいる、あるリーダーの場合はこうだった。「子供のとき阪神淡路大震災を体験し、社会インフラの重要性を強く認識した。そして東日本大震災を見聞きし、災害時に高齢者や子供でも簡単に利用できる通信機構が存在しなくてはいけないのだと強く感じた」。よくある文章だと思われるかもしれないが、ここまでまとめるには意外と時間がかかる。じっくりと取り組んでほしい。