「国際小包の配達に個人宅を訪ねたが不在。また出直してこなきゃ」。220カ国で国際貨物輸送を手掛ける独DHLは、配達担当者のこんな悩みを、ビッグデータと機械学習で解消しようとしている。

 「再配達のコストがかさむだけでなく、“なかなか小包を受け取れない”と受け手の不満も高まる。そこでビッグデータ分析基盤をビジネスに活用する施策のはじめの一歩として、この問題の解決に取り組んだ」と、分析を統括したアンドレ・ウィットフォスDHL Expressディベロップメントマネージャーは話す。

 ウィットフォス氏らが取り組んだのは、宛先など小包の情報から「企業宛てか個人宛てか」を判別する仕組み作り。精度高く判別できるモデルを作って活用すれば、「この小包は個人宛てだから在宅率が高い夕方以降に配送しよう。日中は、企業宛ての小包を重点的に配達しよう」などと、効率的な配送計画を立てることができる。

DHLは「国際小包を個人宅に配達したが不在」という状況を回避
DHLは「国際小包を個人宅に配達したが不在」という状況を回避
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 判別する仕組みはまず、世界各国からアイルランドへ送られる小包などの貨物を対象に開発することにした。この仕組みを作るため、社内からは、過去5年にわたり蓄積した90万件のアイルランド宛て小包の配達データ、420万件の顧客データを調達。社外からは、アイルランド在住の40万人の個人名データ、グーグルからアイルランド国内企業の情報を200万件取得した。

 これらのデータを機械学習にかけて、「企業宛てか個人宛てか」を判別できるモデルを開発した。データには個人宛て、企業宛ての区別がつく項目が含まれている。そこで大半を学習用データにしてモデルを開発。残りのデータを使って、そのモデルの精度を確かめた。

 この作業を繰り返すことで、精度高く判別できるモデルを探った。「より多くの個人宛ての小包を判別するだけでなく、企業宛てなのに誤って個人宛てと判別されるフォールスポジティブの件数も減らすことも重視して開発した」と、モデル開発に携わったテラデータのヨーナス・スバートン氏は話す。

 こうして開発した判別モデルをフィールドテストで試した。一定期間、実際にアイルランドに届いた小包をモデルで分析し、個人宛てかどうかを判別した。一方で、同じ宛先データを配達現場の担当者に渡し、個人宛てか企業宛てかを担当者が経験則で判断し、エクセルに入力してもらった。双方の結果を比べて、判別モデルの精度が実務で通用するレベルかどうかを見極めたのだ。

 その結果、判別モデルの精度は、配達担当者の経験則を20%上回った。配達現場の担当者の場合、0.14%だったフォールスポジティブの割合も、判別モデルでは、0.03%とより低く抑えられると分かった。

 フィールドテストの実施前、判別モデルの効果に半信半疑だった関係者は少なくなかった。しかし成果が得られると分かると、ビジネス適用に積極的になったという。この成果を踏まえて、アイルランド以外の2カ国で実証実験をすることが決定。最終的には40カ国近い配達現場に導入していく予定だ。

 「小包を当社が預かった時点で判別できるので、個人宛ての小包については配達時間を調整するといったオプションサービスを提供できる。配達車のルート計画システムとも連携して効率よい配送を実現していきたい」(ウィットフォス氏)。