クラウドサービスの積極的な導入とIT活用を根付かせる独自の体制で、生産性を高める格安航空会社(LCC)であるPeach Aviation(ピーチ・アビエーション、以下ピーチ)だが、それだけが同社の成長を支えているわけではない。世に出たばかりの最新技術をいち早く検証する機敏さとチャレンジ精神でさらなる業務改善に挑み続ける。

 2016年にはベータ版の提供が始まったばかりの米グーグルの音声認識・音声合成AI(人工知能)「Google Cloud Speech API」を検証。コールセンターに組み込み、一部の電話応対を自動化する実証実験にグーグルやNTTデータ子会社のJSOLと取り組んだ。

グーグルの音声認識・合成AIを運航状況の案内に活用
グーグルの音声認識・合成AIを運航状況の案内に活用
図 ピーチが試験導入した、AIによる発着案内サービスの仕組み
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 自動応対の対象としたのは運航情報だ。Webサイトでも検索可能とはいえ、依然として電話で問い合わせる乗客は多い。台風の接近時などは問い合わせがさらに増える。本社の一角で運営するコールセンターは大幅な増員が難しく、問い合わせの電話に応答しきれないこともしばしばある。

 そこで、例えば「成田」「関空」など出発・到着空港の音声を認識し、そこを発着する路線の当日便の運航が定刻通りか、遅れる場合はどの程度かを運航管理サーバーに問い合わせて音声で自動応対するシステムを構築した。

 当初は乗客の予約番号を音声認識して予約照会することも検討したが、予約番号はアルファベットと数字が混在しており、例えば「9」と「Q」を聞き分けるのが難しい。そこで、誤認識が比較的少ない空港名だけで調べられる運航情報にまず活用した。これだけでも応対できる電話の件数は大幅に増加。「全体の応対件数の3分の1程度を運航情報の自動応対が占めるほどになった」(前野部長)。

 構築期間は1カ月ほど。2016年秋にSpeech APIが大幅に改良され「認識精度が飛躍的に高まった」(前野部長)こともあり、十分に実用レベルだと実感する。Speech APIはアジア各国の言語を認識できる利点もあり、アジア路線を強化するピーチにとって相性が良い。「さらなる活用に向けて準備している」(前野部長)。