簡単でラクにIoT(Internet of Things)を実現できる製品やサービスが続々と登場している。こうした製品・サービスを利用することで、実証実験から本格導入に進まないIoT導入の突破口になりそうだ。


 IoTの本格導入を阻む1つめの「IoTの効果や使い方が、まだよく分からない」という壁を乗り越えたいITエンジニアにお勧めなのが、まず自分にとって、そして誰にとっても身近なモノをIoT化してみることだ。

 その代表例として今、IoT化が進んでいるのがトイレだ。トイレは誰もが利用する。加えて、トイレのIoT化を支援するサービスも既に10種類以上登場している。KDDIやSCSK、伊藤忠テクノソリューションズ、富士通、ユニアデックスなど多くのITベンダーが提供済みだ。トイレは今、簡単にラクにIoT化を実現し、誰もが効果を実感できるモノの代表となっている。

新宿駅のトイレの空き情報をスマホで確認

 実際にトイレのIoT化はどのようなものなのか。小田急電鉄の新宿駅のトイレのIoT化の取り組みを見てみよう。

 小田急電鉄は2017年12月15日、新宿駅西口地下改札内にあるトイレをリニューアルオープンした。そこで取り入れたのが、トイレの空き情報を顧客に表示する仕組みだ。男女のトイレの入り口にサイネージ用のディスプレイを用意し、そこに西口地下改札内のトイレの利用状況や、新宿駅のそのほかの2つのトイレの空き情報を表示できるようにした。

小田急電鉄 新宿駅西口地下改札内トイレに設置された空き状況を示すサイネージ
小田急電鉄 新宿駅西口地下改札内トイレに設置された空き状況を示すサイネージ
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 小田急電鉄は先行して2017年6月からスマートフォン向けアプリでも、西口地下改札内トイレ以外の2つのトイレの空き情報を配信していた。西口地下改札内トイレのリニューアルに合わせて、全ての小田急電鉄のトイレの空き情報がスマートフォンアプリで確認できるようになった。

 「新宿駅に向かう小田急線の利用者が電車の中から空き情報を確認したり、行ったトイレが満員だったりする際に別のトイレに行けるといったメリットがあり、利用者の方からは概ね好評な意見を頂いている」。トイレのIoT化を担当した小田急電鉄の山田聖 IT推進部課長代理はこう話す。

手軽に撤収できることも考慮

 小田急電鉄はトイレのIoT化を検討した当初、本当に利用者に受け入れられるかどうか、分からなかったという。そのため、「利用者の反応次第では途中でやめるかもしれない。手軽に始められるだけではなく、すぐに撤収できる仕組みを用意して始めようと考えた」と山田課長代理は説明する。そこで同社は、配線などの大掛かりな工事をせずに、コストを押さえてトイレの空き情報を見える化できる仕組みを導入した。

 トイレの空き状況のデータはドアに入っているマグネットを使ったセンサーから取得している。ドアが開いているときを「空室」、閉まっているときを「利用中」と判断するようにした。マグネットセンサーには電池で動作する通信装置を付け、センサーのデータをトイレ内にあるゲートウェイに送信する。通信には、Wi-Fiを利用している。

 電池式を採用したのは、まさに配線工事などの手間をかけないためだ。西口地下改札内トイレはリニューアル時にドアの中にセンサーを入れたが、ほかのトイレでは外付け式のセンサーを採用した。「電池は年単位で持つと聞いており、大きな交換の手間はかからないと考えた」と山田課長代理は説明する。