この特集は米IBMの人工知能(AI)システム「Watson」の現状を様々な角度から探っている。第1回は全体動向、第2回は中核機能の「Watson API」を取り上げた。今回はWatsonを導入したユーザーとして、フォーラムエンジニアリング、金沢工業大学、みずほ銀行の事例を取り上げる。

 急な市場変化や少子化への対応、世界的に問題視されているテロ資金対策の強化──ユーザーは深刻化するビジネス課題に取り組むための道具として、Watsonを選んだ。

顧客の要件にどれだけ合致しているかをスコアで示す

 Watsonの利用形態として、現状ではスコアリングとチャットボットの事例が多い。スコアリングはある条件に合致しているかを点数で示す機能、チャットボットは利用者と短いテキストで会話する機能だ。フォーラムエンジニアリングと金沢工業大学はWatsonを使って、スコアリングとチャットボットの併用を狙っている。

 技術系人材サービスのフォーラムエンジニアリングが取り組むのは、同社の顧客企業と派遣するエンジニアとの人材マッチングを効率化するシステム「Insight Matching」。2016年4月に営業担当者を支援するシステムの利用を始めた。顧客の要件にエンジニアがどれくらいマッチしているかを「スキルのマッチング指数は73.3、性格のマッチング率は72.4%」などと示す。

フォーラムエンジニアリングの営業担当者向けシステムの画面例
フォーラムエンジニアリングの営業担当者向けシステムの画面例
画像提供:フォーラムエンジニアリング
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 スキルのマッチングにはデータ分析ツール「SPSS」や同「Watson Explorer(WEX)」による分析結果を利用している。SPSSでは過去4年分の人材と要件とのマッチングデータ約1万5000件を基に、成約に至るルールを導き出した。WEXでは履歴書などのテキスト情報と同社が整備した用語辞書を基にキーワード同士の関連を分析した。性格のマッチングにはWatsonの中核機能「Watson API」の1つである「PI(性格分析)」を使っている。

 同社の営業担当者120人が利用しており、大きな効果を得ているという。竹内政博取締役は「従来は成約に至るまでにエンジニアは1人当たり平均6社を、顧客は1社当たり平均6人を検討する必要があった。システム導入後は全契約の70%が1回の検討で決まるようになった」と話す。