「人工知能(AI)関連のツールやサービスを一通り検討した。その中で機能や使い勝手、導入実績、運用のしやすさといった点を考慮して採用を決めた」。楽天の茶谷公之執行役員AI推進部ジェネラルマネージャーは、米IBMのAIシステム「Watson」を選んだ理由をこう説明する。
同社は2017年4月にWatsonの採用を発表。楽天市場や楽天24、爽快ドラッグ、楽天モバイルといったサービスの利用者をサポートするチャットボットを構築した。
「ログインできない」などとチャットで問い合わせると、「メールアドレスとお名前はわかりますか?」などと返す。「楽天市場のFAQは約2000項目ある。チャットボットを使えば、数ステップで問題を解決できる。コールセンターに電話をしなくても問題を解決できる確率が高まり、サポート担当者は難しい問題の解決に集中できる効果が見込める」(茶谷氏)。
FAQを基に類義語リストなどを用意したうえで、Watsonのチャットボット機能「Conversation(会話)」を利用している。構築期間は1つのチャットボット当たり2~3カ月程度という。
楽天はOSS(オープンソースソフトウエア)をはじめ先端ITの技術力に定評がある。当然、AIについても自社で研究開発を進めている。だが同社はチャットボットについては自前の開発を選ばず、Watsonの採用に踏み切った。茶谷氏はその理由を「既に使いやすい道具が存在する以上、使わない手はない。システム開発に要する労力を顧客対応の強化に注ぐほうが効果的だ」と説明する。
AI推進部が目指すのは、当社の全事業を対象とした顧客対応の効率化や高度化を図るAIプラットフォームの実現。Watsonを利用したシステムはその第一弾に当たり、主に定型業務の効率化を狙う。「法務や人事、経理、ITといった社内部門からの引き合いも強い」(茶谷氏)ため、社内向けにも広げていく考えだ。
導入した日本企業は300社超
今のAIブームを技術面で牽引しているのが深層学習(ディープラーニング)だとすれば、ビジネス向け製品/サービスではWatsonだと言っても過言ではない。2011年に米国のクイズ番組「ジョパディ!」でクイズ王に勝ったことで一躍注目を集め、2014年に欧米でWatson事業を本格的に開始。グーグルやAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)、マイクロソフトといった競合する米国ベンダーに先んじてAI導入を進め、実績を積み重ねてきた。