現在の第3次人工知能(AI)ブームをけん引する深層学習(ディープラーニング)技術。リチャード・ソーチャー氏は同技術の先駆者の一人だ。

 米スタンフォード大学の博士課程にいたころに深層学習に着目し、2014年に深層学習ベンチャーのメタマインド(MetaMind)を設立。米セールスフォース・ドットコムが2016年に買収後、同社のチーフサイエンティストとしてAI研究を主導。その成果を、セールスフォースのAIプラットフォーム「Einstein」に生かしている。

 今回と次回でソーチャー氏に深層学習を中心とするAIに関する取り組みや考え方を聞く。

米セールスフォース・ドットコムでチーフサイエンティストを務めるリチャード・ソーチャー氏
米セールスフォース・ドットコムでチーフサイエンティストを務めるリチャード・ソーチャー氏
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ビジネス分野でAIを活用する際に、何が大切か。

 三つの要件が必要だ。まず、正しいデータを持つ。次に、正しいアルゴリズムを持つ。もう一つは、業務のワークフローと組み合わせる。これらの要件を満たすことで、ビジネスに役立つインサイト(洞察)を引き出し、活用できる。

 私が設立したメタマインドは現在、セールスフォースの一員になっている。個人的に、その意味は大きいと考えている。セールス(営業)やサービス、マーケティングといったワークフローに組み込んだ形で、AIを活用できるからだ。それを通じて、企業の様々な人たちがAIのメリットを享受できる。

2、3年先の実用化を見据える

 AIには大きく二つのトレンドがある。一つはある入力に対して何らかの処理を行い、出力する、単純な「インプット-アウトプット型」と呼べるものだ。音声認識やeメールの分類、機械翻訳などがここに含まれる。

 この分類のAIはコモディティー化が進みつつある。多くはAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)として利用できる。

 もう一つのトレンドは、2、3年先の実用化を見据えて、より精度が高く、高度な作業を狙うものだ。私が所属するセールスフォース・リサーチのような研究開発組織が進めている。単純なインプット-アウトプット型ではなく、例えばコンピュータと自然な対話を可能にすることを狙う。自動運転もここに含まれる。