AIブームのウソとホントに斬り込む連載もいよいよ最終回。これまでの9回の連載を通して、現在のAIの根幹となる機械学習とディープラーニングの現実的な課題、現在メディアを賑わしているAIを活用したサービスの実情と課題について見てきた。最終回となる今回はこれまでの記事の内容を踏まえ、「技術的に可能」という言葉に惑わされることなく、いまAIを活用するために必要な観点について述べる。

 現在の国内市場では「AI詐欺」と呼べるような、「いつかは実現するが、現時点では可能性にすぎない何かを、今すぐ実現できるように見せかける」ことが横行している。それは人工知能(AI)技術に対する導入企業の理解が抽象的なレベルにとどまっていることに起因している。そうした“無知”に乗じて、ITベンダーが「技術的に可能」という魅惑的なセールストークを用いているわけだ。

 この連載で繰り返し述べてきたように、いまAIと呼ばれている技術は何かと言うと、機械学習とディープラーニングを指す。両者の違いを端的に言えば、機械学習は「人間は評価基準だけを決めて、あとは機械に何度も試行させ、試行の中で評価基準の高い対応策が見つかるたびに対応策を自動更新させる」技術であり、ディープラーニングは「大量のデータを読み込ませることで、評価基準自体を考えさせる」技術である。

 過去のAIは「人間が判断に必要なパターンを定義して事前に対応策を決めておく」技術であるのに対して、今のAIは機械が自動で学習をして対応策や評価基準を見つけ出してくれるわけだ。この点が、今と過去のAIの根本的な違いである。

 だが、その「自動で学習」という点が、ビジネス導入の非現実さを生み出してしまう。「自動」になるということは、その対応策や評価基準の妥当性などをブラックボックス化してしまうことを意味し、「統計的に大丈夫」という言葉に企業の命運を預けられないという問題を引き起こす。学習させるためには量と質を兼ね備えたデータを用意する必要も生じるため、学習準備に莫大なコストが生じてしまう。

 補足ではあるが、「統計的に大丈夫」では企業の命運を預けられないという問題は、米国では既に大きな課題として認識されており、対応策も取られ始めている。最近では、シリコンバレーなどに拠点を構えるスタートアップ企業によって、AIが何をもって判断するかを可視化する機能を提供するサービスも始まっている。

 さらに大きな問題も横たわっている。自動で学習した結果が期待効果を生み出すかどうか、見込み通りになるかどうかは、やってみないとわからないのである。