「AI詐欺」が横行する日本のIT業界。AIブームのウソとホントに斬り込む連載の第9回では、証券会社などが相次いでサービスを開始した「ロボットアドバイザー」の“知能レベル”について言及する。実は、ロボアドは喧伝されているような高度な機能を提供するサービスではない。にもかかわらず、「AI」が強調される背景には、証券会社のビジネス上の思惑がある。

 昨今「FinTech(フィンテック)」というバズワードの下、日本でも新たな金融系のITサービスが増えている。ブロックチェーンという新たな技術を用いて多くの耳目を集めた仮想通貨、そしてクラウド家計簿やクラウド会計といったアカウントアグリゲーション、モバイル決済などがFinTechの主要サービスとしてもてはやされている。そんなFinTechの中でも人工知能(AI)を活用したと喧伝される「ロボアドバイザー」は、証券会社など多くの事業者によってサービス提供が始まっている。

 ロボアドバイザー(ロボアド)とは、「ラップ口座」と呼ばれる投資一任契約の資産運用サービスにおいて、本来はフィナンシャルプランナー(FP)が実施する投資戦略やポートフォリオの作成、ポートフォリオに基づいた投資配分の調整(リバランス)をAIが代替するものだ。そもそもラップ口座では、投資家の一任を取り付けFPがこうしたサービスを提供してきた(図1)。

図1●ロボアドバイザーの仕組み
図1●ロボアドバイザーの仕組み
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 日本の証券業のビジネスモデルと言えば、2000年代までは株式や投資信託の売買を仲介し手数料を得るのが主流だったが、最近では米国で急成長したラップ口座が普及しつつある。手数料や最低契約金額を低く抑えられるロボアドは、そんなラップ口座の普及を加速させるサービスとして期待が寄せられている。

 米国では、ラップ口座の運用資産高が2016年の0.3兆ドルから2020年には2.2兆ドルまでに成長するという予測もある。日本でもラップ口座の拡大とともに、ロボアドの導入も進むものと見られる。このように期待の大きいロボアドだが、AIはどのように使われているのだろうか。(図2

図2●拡大する米国のロボアド市場
図2●拡大する米国のロボアド市場
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“過去のAI”を活用したロボットアドバイザー

 実は、ラップ口座で提供されているロボアドは、そもそも“現在のAI”、すなわち機械学習でもディープラーニングのどちらでもない。この連載の第2回で、炊飯器や洗濯機で以前から使われているAIを解説したが、それらと同じで“過去のAI”を活用したものだ。

 ロボアドの主な機能は、投資スタンス診断に基づくポートフォリオ作成と、そのポートフォリオに基づくリバランスの2つだが、いずれも過去のAIで十分に実現可能だ。投資スタンス診断とは、配当重視など投資に対する姿勢や個人情報に関する質問に回答すると推奨ポートフォリオを提示する仕組みだが、質問と選択肢の数は少ない。算出されるポートフォリオのパターンも数百、多くても数千パターンに過ぎず、機械学習やディープラーニングを導入するに値しない。