「AI詐欺」が横行する日本のIT業界。AIブームのウソとホントに斬り込む連載の第6回では、自動運転車の実用化にまつわる“ウソとホント”を取り上げる。AIによる完全自動運転が2020年に実現するのは、技術の観点から見ると“ホント”。だが、そのことが完全自動運転車の実用化、商用化を意味するというのは“ウソ”だ。立ちはだかる大問題について解説する。

 前回までは、現在の人工知能(AI)を形作る機械学習とディープラーニングの仕組みをひも解くことで、日本のIT業界に横行する「AI詐欺」のからくり、それと密接に関わるIoT(インターネット・オブ・シングズ)とAIの両ブームの関連性について述べた。今回からは、これまで説明した機械学習やディープラーニングの仕組みに関する知識を基に、コスト課題や効果課題の視点で、AIというキーワードで取り組まれている技術やサービスの実現性について見ていきたい。

 現在、AI技術として最も進んでいるのは自動運転技術である。既に運転サポート・アシスト機能としての提供が始まっており、世界の自動車メーカー各社がしのぎを削って開発を進めている。日本においても、国内経済の柱となる自動車産業の将来を左右する技術のため、経産省が当初は2030年代を目標としていたレベル4(完全自動運転)の実現を、地域限定ではあるが2020年に前倒し、自動運転車を巡る社会課題の解決にも積極的に取り組む姿勢を打ち出している。

 このように導入に向けた機運は急速に高まっていることから、すぐにでも自動運転車が公道を走り出すかのように思ってしまう。だが、自動運転はそんなに簡単に実現できるのであろうか。

研究開発が加速するAIによる完全自動運転車

 AIが古くからあることは連載の第2回で説明したが、実は自動運転技術の歴史も古い。高速道路などで一定速度を維持するためのオートクルーズ機能など、運転サポートとしての自動運転技術は1990年代から存在していた。現在の自動ブレーキなどの運転アシスト・サポートについても、一定のルールに基づく自動化であるため、現在のAIを使った技術とは言い難い。

 そのため、AIの試みとして取り上げるべき自動運転は、機械学習を用いた完全自律走行型の技術であり、日本や米国で定義する分類で言えばレベル3やレベル4を指す。実は、こうしたAIによる自動運転技術の開発も、現在のAIブームよりも以前から行われていた。

 AIによる自動運転技術の開発に向けた明確な発端は、2000年代後半のグーグルの取り組みである。グーグルは当時CEO(最高経営責任者)であったラリー・ペイジ氏の着想を基に、自動運転車開発のプロジェクトを始めたと言われており、すぐにその活動が広く知られるようになった。

 だが、自動運転車は実用化までの道のりが長いこともあって、2010年代になるとROS(ロボティクス・オペレーティング・システム)というバズワードに変わり、自動車だけでなく人間の作業を代替するロボット全般に対するソフトウエア技術として認知されるようになった。そうしたROSブーム、ロボットブームの最中でも、グーグルや自動車メーカー各社は水面下で自動運転車の開発を進めていた。