「AI詐欺」が横行する日本のIT業界。AIブームのウソとホントに斬り込む連載の第5回では、IoTについては触れる。著者は「今のAIとIoTは本来同じところからわかれた」と指摘する。その歴史的経緯を説明したうえで、別々の取り組みに仕立てることで導入料金を二重取りするITベンダーの問題を斬る。最後にインダストリー4.0などの別ワードとIoTの“差異”を解説する。

 この連載は、人工知能(AI)を正しく活用してもらうために企画したものであり、ここまでAIの仕組みと効果について述べてきた。そして今回は、IoT(インターネット・オブ・シングズ)を取り扱う。「IoTはAIとは別物なのに、なぜAIの連載でIoTが登場するのか」といぶかる読者も多いことだろう。

 確かにIoTとAIは技術的にも概念的にも異なるものである。IoTとは「モノのインターネット」と訳される通り、様々な機器をインターネットにつなげようという概念であり、AIとは一線を画しているように思える。だが実は、IoTの活用はAIと密接に関連している。むしろ、IoTなくしてAIの実現は困難と言っても過言ではないし、逆にAIなくしてはIoTの導入効果は無いと言っても言い過ぎではない。(図1

図1●これからはIoTでデータを取得し、AIによって活用する時代
図1●これからはIoTでデータを取得し、AIによって活用する時代
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 日本では、ITベンダーはIoTとAIを別サービスとして提供することが現時点では一般的だ。その結果、工場の生産性を高めるという目的は同じであるにもかかわらず、同じユーザー企業の中で製造部門がIoTの導入を検討する一方で、経営企画部門がAIの導入を検討しているというチグハグな事例を散見する。

 ITベンダーもユーザー企業も、AIやIoTといった技術を起点にして何かよい使い方はないかと考えるプロダクトアウトの発想が支配しているからだ。「工場の生産性を高める最善・最適の方法は何か」という本来あるべきはずのマーケットインの発想がない。このためAIとIoTを別々に検討するなど重複が発生し、カニバリズム(≒お互いに効果を相殺し合ってしまう事象)すら生じてしまう。

 だが、ITベンダーは気にはしない。IoTとAIを提案するITベンダーが異なるケースがほとんどで、同じユーザー企業で類似した取り組みが行われていることを知る由もない。もっと言えば、システム導入のために必要な情報以外の事を、ITベンダーは知る気すらないのだ。もっとタチの悪いケースでは、同一のITベンダーが両方の取り組みを受注し、どちらも同じ目的であることを知ったうえ、別のプロジェクトとして扱うこともある。いわば料金の二重取りである。

AIとIoTを別の取り組みとする不条理

 ITベンダーだけを責めることはできない。なぜなら、彼らはユーザー企業の要望に沿ってシステムを構築すること、あるいは狙った成果・効果がシステム導入で達成されることを目的とするビジネスである。その成果・効果が他のシステムでも実現できることや、もっと良い方法があることを検討するのは、彼らのビジネスの対象外なのだ。