「共創」十番勝負のNEC編の第2回は、新規事業などを担当するCMO(チーフマーケティングオフィサー)の清水隆明 取締役 執行役員常務のインタビューを掲載する。いまだに成長軌道に乗れないNECにとっては、「ビジネスモデル変革を含めた新規事業立ち上げの遅れが課題」(新野隆社長)。このため、リーンスタートアップやデザイン思考などの方法論を“本気で”取り入れ、共創の枠組みで新規事業の立ち上げを急ぐ。

 だが今は、いくつかの新規事業がようやく芽吹いた段階。それらを業績にインパクトのある大きなビジネスに育てるのは容易ではない。さてNECはどうする。

(聞き手は木村 岳史=日経コンピュータ

NECにとって新規事業の創出、ビジネスモデルの転換は喫緊の課題だと思うが、経営としての基本認識や戦略をまずは聞きたい。

 今は人類史上で最も変化が激しい時代だと言われているが、まさにその通りで、変化のスピードについていけない企業もたくさん出てきている。企業にとって大きな問題は、成長戦略が描けなくなっていることだ。企業がどのように変わればよいのか、何に投資すればよいのか。予見可能性が昔に比べ、がたんと落ちた。

清水隆明 取締役 執行役員常務 CMO(チーフマーケティングオフィサー)
清水隆明 取締役 執行役員常務 CMO(チーフマーケティングオフィサー)
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 私はCMO(最高マーケティング責任者)でもあるが、他社のCMOと話すと、誰もが同じ事を言う。どんな製品やサービスを作ればよいのか、昔ほどシンプルではない。全く分からないわけではないが、当たりの確率がすごく下がっている。だから、どこの企業でも経営者が「新規事業を起こせ! 新しいことを始めよ!」と号令する。成長戦略を描けず、既存の事業ドメインにとどまっていると、企業はこれから先、生き残ってはいけない。そんな危機感があるわけだ。

 だけど、はっきり言えば、今は顧客が何を求めているか分からない。実は、顧客自身にも分からない。言い方を変えれば、本質的な“お困り事”が誰にも分からないのだ。社会や経済がめまぐるしく変わっている中では、顧客にとって「本当はこれで困っていたんだよね。これがあると嬉しいね」という本質的なものに、なかなかたどり着けないのだ。

ドカーンと投資したら大外れ、大失敗

 我々、ITベンダーの事業でも、以前なら業務ソフトウエアを提供すれば、顧客の業務が効率化して100人の人員を50人にできた。大いに効率が上がって大変なメリットがあった。顧客のお困り事はシンプルで、簡単に解決策を提供できたわけだ。でも今は、そんな取り組みは全部終わってしまい、じゃあ次の課題は何かということになると、顧客自身も答えることができない。この「本質的な課題が分からない」という壁を乗り越えないと、新規事業は起こせないし、顧客の満足も得られない。

 では、どうするのか。これはもう、事業創造のアプローチを変えるしかない。そのアプローチの一つが顧客、異業種企業との「共創」であり、「オープンイノベーション」であるわけだ。自社の技術から発想していては、本質的課題を探り当て解決策を生み出すことができない以上、他の企業と組む。技術を囲い込んで隠すのではなく、オープンにして外部の技術と組み合わせることで、今までになかった破壊的イノベーションが生まれる可能性があると、我々はようやく学んだ。

 もう一つ重要なアプローチがリーンスタートアップ。予見可能性が低くなったため、ドカーンと一気に資金を投じて大外れ、大失敗というケースが頻繁に起こるようになった。だけど、ベンチャー企業はうまくやっている。そうしたベンチャー企業のやり方こそがリーンスタートアップの手法だったのだが、5年ほど前に、その手法に注目し取り入れた大企業が現れた。米国のGE(ゼネラル・エレクトリック)だ。

NECも、新規事業にドカーンと投資し失敗することが多かったと思うが、共創の取り組みだけでなく、リーンスタートアップの手法も取り入れたというわけか。

 実は、NECはGEから大企業におけるリーンスタートアップの手法を学んだ。NECの中でもリーンスタートアップを可能にしよう。つまり、ドカーンと投資するのではなく、お金をミニマイズして、いかに確度を上げたイノベーションを起こすかにNECもカジを切ったのだ。ある意味、ケチケチのイノベーションだ。

 リーンスタートアップの手法をフレームワークとして社内に浸透させている。お金を掛けずに仮説検証できるやり方、顧客や異業種の企業と新事業で議論するやり方、(ビジネスモデルを検証する手法である)ビジネス・モデル・キャンバスを活用する方法などをフレームワークとして活用し、イノベーションを起こそうとしている。まさに、GEが社内で行った手法をNECも取り入れたのだ。