既存のSIや保守運用ビジネス、いわゆる人月商売に先はない――。そのことを悟った大手ITベンダー各社は今、新規ビジネスの創出・育成に血道を上げる。なんせ悲観派のITベンダーの経営幹部は「東京五輪まで持たない」と言い、楽観派でも2025年をタイムリミットと見る。「人月商売が好調な今のうちに新しいビジネスを立ち上げなければ」というのが大手ITベンダーの経営幹部の共通認識だ。

 ITベンダーの新規ビジネスには共通のアプローチがある。それが「共創」。新しいビジネスをユーザー企業などと「共」に「創」る試みだ。なぜ共創なのかと言うと、ユーザー企業がIT投資の比重を基幹系システムからデジタルビジネスの領域に急速に移そうとしているからだ。デジタルの領域は基幹系と違い人月商売は通用しない。そこで、デジタルに取り組むユーザー企業と共に新しいビジネスを創ろうというのが、ITベンダー共通の思惑なのだ。

 そうした大手ITベンダーの取り組みを「極言暴論」の木村岳史が辛口で斬るのが、このITpro特集「共創十番勝負」だ。5社目に登場するのはSCSK。これまで登場したITベンダー4社と同様に、SCSKがイチオシと自薦した共創事例と、担当役員へのインタビュー、それを踏まえて「極言暴論」流にSCSKの取り組みをバッサリ斬る「木村岳史の眼」の三部作でお届けする。

 今回、SCSKが共創事例としてイチオシしてきたのは、食品スーパーのいなげやとの「マーケティング戦略推進のためのITサービス提携」。このイチオシ事例は、私の予想とは違い少し意外だった。最近は「働き方改革先進企業」として紹介されることが多いSCSKだが、新規ビジネスや共創事例でも他社に大きく先行するものがある。車載システム事業だ。

 車載システム事業は、SCSKが戦略事業と位置付ける期待の新規ビジネスで、自動車に搭載する標準仕様のOSやミドルウエアなどを開発しようというもの。既に自動車部品メーカーに納品しているから、てっきり車載システムを巡る部品メーカーなどとの共創をイチオシしてくるものと思っていた。ところが意外なことに、SCSKのイチオシは大手小売業との共創事例だった。

 いなげやとの共創をざっくり説明すると、スーパーの店舗の売り上げアップに向けて店長を支援するデータアナリティクスの仕組みづくりだ。当然いなげや以外の店舗にもSCSKが提供する予定のサービスだが、実は「現場のための仕組み」「データアナリティクス」は小売業にとっても、ITベンダーにとっても鬼門。現場に使ってもらえず、ITベンダーも絶対に儲からない、死屍累々の領域だ。あえてそこで共創に取り組む狙いは何か。