共創十番勝負 富士通編の第3回は、これまでと同様に「極言暴論」の木村岳史の眼で、富士通の共創、そして新規事業の取り組みを辛口に斬る。国内IT最大手でありSIを主力ビジネスとする同社の動きは、SIerを頂点とするIT業界の多重下請け構造の将来をも規定する。SIの主力事業としての“寿命”が10年もないと見切った同社は、はたして「第4の柱」となる新規事業を顧客との共創で生み出せるだろうか。

 富士通にこんな“歴史観”があるとは知らなかった。「最初の30年は通信機器事業が経営を支えて、コンピュータ事業を生み、次の30年はコンピュータ事業がSI事業を育んだ。だから、1995年から30年後である2025年まではSI事業が支える」。これは前回のインタビューで、デジタルフロントビジネスグループ長の宮田一雄執行役員常務が語った富士通の主力事業の変遷である。

 大手ユーザー企業が一斉に、基幹系システムへの投資を絞るとともに、本業のデジタル化に向けシステム内製化やクラウド活用に乗り出しているリアリティーを見ると、私にはSIビジネスが2025年まで主力事業でいられるとは、とても思えない。しかし富士通では、この“30年説”は強固な認識のようで、決算発表の席上でSI事業の将来を聞かれた際にも、発表者が「2025年までは大丈夫」との見通しを述べている。

 もちろん、SIへの需要がある時を境に激減するわけではなく、徐々に減少していくはずだから、SIをいつまで主力事業として引っ張るかは富士通の経営判断だ。「多重下請け構造の人月ビジネスのモデルのずるいところで、“ゼネコン的立場”にある大手ITベンダーは(しばらくは)生き残れる」と宮田常務が正直に話すように、既存の下請けITベンダーへの依存を減らすことで、SIビジネスはしばらく命脈を保つことができるだろう。

 そしてSIビジネスが経営の屋台骨である5~10年のうちに、顧客との共創で通信、コンピュータ、SIに次ぐ「第4の柱」を創出しようというのが、富士通の新規事業戦略というわけだ。ちなみにSIビジネスは「御用聞き」「人月商売」「多重下請け構造の活用」で特徴付けられるが、富士通として新規事業を興すことで少なくとも御用聞きと多重下請け構造の活用という日本のIT業界の“悪弊”から脱却しようとしている。