「2020年代には既存のシステム開発や保守運用の市場は2分の1に縮む」。SIを主力ビジネスとする大手ITベンダーの多くがそんな暗い近未来図を描く。ユーザー企業が基幹系システムから、IoT(インターネット・オブ・シングズ)や人口知能(AI)などを使った「デジタル」分野へとIT投資を急速にシフトさせ始めたからだ。しかもデジタル分野は本業のデジタル化のため、従来のようなITベンダーへの丸投げを改め、システムは内製が基本だ。

 まさにITベンダーの人月商売、そして日本のIT業界を特徴付ける多重下請け構造の瓦解は近い。そこで大手ITベンダーは皆、デジタル時代に対応できる新たなビジネスモデルを模索して、新規事業の創出に乗り出した。その際、各社がキーワードにするのは「共創」。ビジネスのデジタル化に取り組むユーザー企業と手を組み、新しいビジネスを「共」に「創」る試み。ポイントは、共創相手がユーザー企業のIT部門でなく事業部門であることだ。

 こうした大手ITベンダーの取り組みを「極言暴論」の木村岳史が辛口で斬るのが、このITpro特集「共創十番勝負」だ。4社目に登場するのは富士通。先に登場したITベンダーと同様、富士通がイチオシと自薦した共創事例と、新規事業担当役員へのインタビュー、それを踏まえて「極言暴論」流に富士通の取り組みをバッサリ斬る「木村岳史の眼」の三部作でお届けする。

 まずは富士通の共創イチオシ事例だが、最初に広報担当者から「水資源機構 琵琶湖開発総合管理所との共創事例を紹介したい」との連絡を受けたときに、正直言って私は腰を抜かしそうになった。私の定義では、共創はユーザー企業と「共」に新しいビジネスを「創」ることだ。共同出身会社を設立してデジタルビジネスに取り組むというのが典型例だが、そこまで行かなくても、一緒にビジネスを創る形が必要と思っている。

 なんせ水資源機構は一般企業ではなく独立行政法人だ。この事例が共創事例と言えるのか極めて危うい。もちろん、共創相手が絶対に企業でなければならないと言うわけではない。それに「共創十番勝負」では、ITベンダーのイチオシを100%尊重することにしている。気を取り直してこの事例の概要を聞くと、ヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)や拡張現実(AR)などを活用したソリューションとのこと。うーむ、ますます心配になった。

 富士通の広報担当者によると、新規事業などを担当する宮田一雄 執行役員常務デジタルフロントビジネスグループ長が直々に、この事例を共創イチオシ事例として挙げたという。「そこまで言うなら」というわけで、この共創十番勝負・富士通編では水資源機構の事例の担当者と宮田常務に話を聞くことにした。聞いてみると、私は100%同意するわけではないが、富士通独特の新規ビジネスや共創への考え方と本気度が浮かび上がってきた。