「共創」十番勝負 TIS編の第3回は、ベンチャー企業の共創などを通じて人月商売からの脱却を目指すTISの取り組みを、「極言暴論」の木村の眼で斬る。コンピュータメーカーでもなく親会社も持たないTISは「最もSIerらしいSIer」と言える。ある意味、TISが改革への道筋をつけられるかが、日本のIT業界の受け身の人月商売、多重下請け構造から脱却できるかどうかの試金石になると思うが、はたしてどうか。

 TISから「共創イチオシ事例として、ベンチャー企業との取り組みを紹介したい」とのオファーが来たとき、正直言って私は「これは面白くないかな」と思った。この企画では、大手ITベンダー各社に共創イチオシ事例を自薦してもらって、その理由も語ってもらうことにしている。TISの場合、新しいビジネスをベンチャー企業と「共」に「創」ることをイチオシ事例としたが、今どき大手ITベンダーならどこでもやっている取り組みだ。

 ところが、実際に取材してみると面白い。なぜならばTISには深い危機感とトラウマがあり、受け身の人月商売からの脱却、新しい形のリカーリングビジネス(継続的に稼ぐビジネス)の創出に本気だったからだ。危機感というのは、SIビジネスやシステム運用保守の受託ビジネスが2020年代には「半減してしまう」(中村清貴執行役員)との予測。木村が極言暴論で主張する「SIer死滅説」ほどではないが、かなり深刻な予測だ。

 トラウマというのは、「大きな可能性のあった新規事業を自社で生かせなかった」との思いだ。2000年代後半に、TISは社内ベンチャー的な取り組みとして、ある有望な新規事業を育てようとしていた。ところが、JCBなど大手顧客のシステム開発プロジェクトが大炎上したため、新規事業チームの技術者を引っこ抜き、いわゆる“火消し要員”として現場に送り込むことになった。

 開発プロジェクトが炎上した時、新規事業チームから技術者を引き抜くのは、他のITベンダーでもよくやる悪弊だ。これをやったら、新規事業の担当者のモチベーションが持たず、新規事業は雲散霧消する。TISの新規事業の場合、担当者は退職し、自ら考案したビジネスモデルの可能性に賭けてベンチャー企業を興す。その担当者とは倉貫義人氏で、彼が設立した企業は「納品のない受託開発」で知られるソニックガーデンである。