「共創」十番勝負のNTTデータ編の第2回は、IoT(インターネット・オブ・シングズ)や人工知能(AI)関連で新たなソリューション作りを推進するビジネスソリューション事業本部の本部長、佐々木裕執行役員のインタビューである。

 IoTやAIに対するユーザー企業の経営者の関心はすさまじいほどの高さで、どんなビジネスを創れるかが、今後のIT業界の帰すうを決めると言っても過言ではない。だが他の大手SIerと同様、大規模なシステム構築がビジネスの主力のNTTデータは、IoTやAIとは“相性が悪い”。導入効果がいまだ明確ではなく、従来のようなSIの枠組みでは「NTTデータがやるような」大きな案件にもなりにくいからだ。

 「顧客企業との共創」がIoT、AIを軸とする新たなビジネスの突破口となるか。その戦略を聞いた。

(聞き手は木村 岳史=日経コンピュータ

NTTデータは「共創」の取り組みをどのように位置付けているのか。SIのような従来ビジネスに替わる新規事業を生み出すといった戦略的意味合いがあるのか。

 共創やオープンイノベーションの取り組みを語る前に、明確にしておかなければならないのは、NTTデータは「クライアントファースト」をうたっており、新規事業も基本的に顧客のニーズに基づいて創り出していくというのが基本スタンスということだ。当然、顧客のニーズには既存システムの更改もあり、SIビジネスは今後とも継続するのは当然のことだ。

ビジネスソリューション事業本部長 佐々木裕執行役員
ビジネスソリューション事業本部長 佐々木裕執行役員
[画像のクリックで拡大表示]

 ただ、昨今言われているような攻めのIT領域に対して、どういった形で我々が技術なりサービスなりを提供していくのかというのが、大きな課題であるのは間違いない。クラウドが普及するなか、IoT(インターネット・オブ・シングズ)や人工知能(AI)といった技術トレンドの進展もあり、ユーザー企業の攻めのIT領域への投資も活発化していく状況にあるので、ソリューション部隊を中心に我々もいろいろな取り組みにチャレンジしようとしている。

 私が本部長を務めるビジネスソリューション事業本部は水平横断的な機能提供を行う組織で、従来からネットワークやデータセンター、そして全産業で共通に使えるデジタルソリューションを提供してきた。しかし今、一大ブームとなっているIoTやAIについては、相当に深いソリューションを生み出していかないと、他社との競争に勝てないという危機感を持っている。

 だからこそ、顧客との共創が重要だ。いくつかのPoC(Proof of Concept:概念実証)などの形で、顧客と一緒に様々なアイデアの実現可能性を探っていく必要があると考えている。

そう言えば、顧客の企業にITベンチャーを結び付ける「豊洲の港から」というオープンイノベーションの取り組みを進めているが、これも共創の一環と考えてよいか。

 「豊洲の港から」は他の部門が推進している取り組みだが、ベンチャー企業と顧客を引き合わせるような取り組みも非常に重要だ。これだけインターネットやクラウドが発展してくると、日本のベンチャー企業に限らず、米国やイスラエルなど世界中のベンチャー企業の技術がどこでも使えるようになってくる。

 NTTデータ全社としてもアンテナを高くして、そうしたベンチャー企業の技術をいろいろな方面で活用していかなければと考えている。先日、私自身もシリコンバレーへ行って、現地のベンチャー企業らといろいろと議論してきたところだ。

「クライアントファースト」はスローガンとしては分かりやすいが、共創は本来、顧客と業者の関係ではなく、異業種連携、対等の事業パートナーとして推進するのがスジではないのか。「お客様、お客様」と言っていると、従来のSI的発想、受け身の姿勢も抜けない。

 もちろん、木村さんの言いたい趣旨は理解しているが、攻めのIT領域の案件だと、その「顧客」が今までの顧客とは異なってくる。何のことかと言うと、話をする相手が従来のIT部門ではなく、現場の事業部門に代わる。

 従来はIT部門が発注者で、我々は受注者の立場でシステム開発などを手掛けてきた。一方、例えば工場部門でビッグデータ解析のPoCをやるとなると、工場の技術のトップが話し合いに出てきて、どこまでデータを開示してもらえるかなどを我々と協議する。そうなると顧客と我々は、「工場の歩留まり改善が本当にできるのか」といったビジネス価値をダイレクトに議論できる関係性になる。

 そう言った意味では、企業対企業の意味合いが単なる「発注者と受注者」から少し変わってきたと思う。