携帯電話事業者が従来の通信サービスに加え、物販や電力、保険といった様々なサービスの展開を通じて構築しようとしている経済圏のこと。ポイント戦略を基軸に顧客のあらゆる消費を取り込み、囲い込みの強化と新たな収益源の確保につなげる狙いだ。

 携帯電話大手3社が経済圏の確立を急ぐ背景には、「市場の成熟化」や「競争の同質化」がある。携帯電話(PHSを除く)の人口普及率は2012年10月に100%を突破し、2016年9月末時点で約1億6000万件となった。今後もM2M(Machine to Machine)/IoT(Internet of Things)で契約数の拡大は見込めるが、ARPU(契約者当たりの月間平均収入)は低い。スマートフォンの普及拡大で収益はまだ伸びているとはいえ、いずれ頭打ちになる。

 一方、端末や料金による差異化も難しくなってきた。大手3社が米アップルの「iPhone」を取り扱い、新たな料金プランを打ち出しても即座に追随されて横並びとなる。さらに総務省の指導で端末の値引き競争が難しくなり、大手3社間の流動性は一気に落ちた。代わりに「格安スマホ」に代表されるMVNO(仮想移動体通信事業者)との競争が激しくなっている。

 となれば、大手3社にとっては「他社への流出をいかに食い止めつつ、単価(ARPU)を引き上げられるか」が重要になる。これまでも固定回線とのセット契約、タブレット端末をはじめとしたマルチデバイスの利用促進などの施策を展開してきたが、さらに大きく踏み込んだ戦略が経済圏の確立である。数千万規模の顧客基盤と認証・決済プラットフォームを保有する点を強みに一気に広げていきたい考えだ。

 大手3社は基軸となるポイントプログラムを刷新済み。KDDI(au)は2014年5月に電子マネー「au WALLET」の開始と同時に「WALLET ポイント」を導入した。ソフトバンクは2014年7月にポイントプログラムを「Tポイント」に切り替えた。NTTドコモに至っては新しい共通ポイント「dポイント」を2015年12月に導入し、果敢な勝負に出ている。

 もっとも、大手3社の取り組みはまだ始まったばかり。顕著な動きを見せているKDDIを例に挙げると、2015年8月に「au WALLET Market」を立ち上げ、ネットとリアル(auショップ)の両面で物販を本格展開。2016年4月に電気、生命保険、住宅ローンなどの取り扱いを開始したような段階である。ソフトバンクは電気(2016年4月)、NTTドコモは生命保険(2016年9月、代理店契約)の取り扱いを始めた。大手3社で温度差はあるものの、2017年にどのような次の一手を繰り出してくるかが注目となる。