ゼロレーティングとは、通信サービスの課金対象から特定のアプリケーションを除外すること。国内ではLINEモバイルが、LINEなどのSNSのトラフィックを課金対象としない「カウントフリー」を売りにMVNO(仮想移動体通信事業者)に参入したことから、本格的に市場へ浸透した。

 2017年はこのようなゼロレーティングの動きがIoT(Internet of Things)分野でも進展しそうだ。すなわち、IoT通信を課金しない、もしくはエンドユーザーに通信料金を見えなくするような動きである。このような動きを「ゼロレーティングIoT」と総称しよう。

 例えば京セラコミュニケーションシステム(KCCS)が2017年2月からサービスを開始する仏SIGFOXのIoT向けネットワーク。KCCSは最安値として年額100円(サービス事業者向けの卸料金、デバイスの接続数が100万回線、1日に2回の通信までの場合)でのサービス提供を計画している。

 これだけ安い通信料金となるとサービス提供側にとって、課金請求コストのほうが通信コストよりも高くなってしまう。そのため「デバイスやセンサーに5年間の通信費込みで販売したいというサービス事業者の声が多い」(KCCSの黒瀬善仁社長)という。このような販売手法が広まると、エンドユーザーからは通信料金が見えなくなる。

 IoT向け通信技術であるLoRaWANを使ったサービスを2016年度内に開始するソフトバンクも、「IoTビジネスは、米アマゾン・ドット・コムのKindleのようにデバイスやネットワークを無料に近づけ、プラットフォームで稼ぐモデルに極めて近い」(サービスプラットフォーム戦略・開発本部プラットフォーム戦略統括部戦略部 戦略1課の沓野剛課長)と語る。

 ソフトバンクはLoRaWANを使ったサービスについて通信サービス単体での提供を考えていない。「企業によるIoTの取り組みの結果、コスト削減を実現した場合、その削減分をお互いレベニューシェアするようなモデルがあってもよい」(サービスプラットフォーム戦略・開発本部プラットフォーム戦略統括部戦略部の中島裕司部長)と、新たな収益モデルについても検討している様子だ。

 これまで企業のIoTの取り組みの障壁となっていたのは、毎月積み上がる通信コストだった。それがSIGFOXやLoRaWANといったIoT向けにシンプル化した通信技術の登場によって、その壁が崩れつつある。その動きと歩調を合わせて、通信料金の形も大きく変わろうとしている。