カードや駒、マップを使って楽しむアナログゲーム、ボードゲームの市場が盛り上がっている。その理由の一つとして挙げられるのがデジタル環境の進化。ソフトやハードが進化したことで、以前に比べて高品質な印刷や造形が比較的安価に得られるようになり、個人でもゲームを作りやすくなったからだ。その一方で、市場では新たな懸念も生まれている。


 最近関心が急速に高まっていてテレビなどでも見聞きするようになったとはいえ、デジタルゲームと比べたら、肌感覚としてまだまだマイナーでしょ、と思う人も多いボードゲームの世界にも同人作品の即売イベントがある。それが、「ゲームマーケット」だ。

 東京で毎年「春」と「秋」の2回、関西方面で早春の1回と年3回開催が定例となったゲームマーケットは、このところ、来場者数が前回比10%増を記録している。前回の「ゲームマーケット2016春」(5月5日に東京ビッグサイトで開催)はついに来場者数が1万人を超えた。12月11日に開催された「ゲームマーケット2016秋」の公式来場者数は1万2000人に達した。ゲームマーケットの公式来場者数は、午後3時以降の来場者はカウントしないため、実数はもう少し多いだろう。

同人作品が支える日本最大のボードゲームイベント「ゲームマーケット」

 来場者数が2回連続して1万人を超え、大手全国紙新聞がイベント内容を報じるなど、規模拡大と一般の人への認知が大きく進む中、実は出展側の規模も毎回増え続けている。春の出展団体数が480団体なのに対し、ゲームマーケット2016秋では545団体まで増えた。

 ゲームマーケット2016秋に登場した新作ボードゲームの数は公式情報でもカバーできず、ブロガーが公式カタログ(出展者のブース紹介を掲載した入場チケットを兼ねた冊子)から手作業で抽出した作業では200タイトルとも300タイトルとも言われている。これはカードゲームなどのメジャーカテゴリーだけのデータなので、ウオーゲームやシミュレーションゲームといったニッチカテゴリーを含めるとさらに増えるだろう。

 これは、商用ボードゲームを製作しているベンダーやボードゲームショップなど、いわゆる「プロ」が制作したタイトルも含んだ数だが、圧倒的多数はアマチュアの同人ボードゲームサークルによる「自作」ボードゲームだ。

「ゲームマーケット2016秋」は完成したばかりの国際展示場東7-8ホールを使った。開口部が海に向かってばばーんと開いているため、付近のブーススタッフはこごえていたとかいないとか。写真は会場前の設営風景
「ゲームマーケット2016秋」は完成したばかりの国際展示場東7-8ホールを使った。開口部が海に向かってばばーんと開いているため、付近のブーススタッフはこごえていたとかいないとか。写真は会場前の設営風景
(撮影:筆者、以下同じ)
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PCとプリンターと印刷用紙の進化がボードゲームの自作を可能に

 ゲーム盤や駒が必要になるボードゲームは個人での制作が難しいのでは、と考える人が多いかもしれない。しかし、DTP(デスクトップパブリッシング)を始めとするデジタル環境の進化やノウハウの蓄積により、ボードゲームを制作するハードルはぐぐっと下がっている。

 具体的には、一般消費者向けのインクジェットプリンターの出力画質と精度向上、出力用紙のバリエーションが豊富になったこと、デザイン用アプリケーションの定番であるアドビ システムズの製品群に安価なサブスプリクションプランが登場したことなどだ。マイクロソフトの「Excel」や「Word」を駆使してユニットのデザインやチャート類、ゲームボードを作成するノウハウもある。

 こうなると、プログラミングなどの素養がなくてもアイデアさえあれば形にできるボードゲームは新規参入しやすい。そういうわけで、ボードゲームを自作する同人デザイナーも急速に増えている。

アドビ システムズの作図ソフト「Illustrator」を使わなくても「Excel」でゲームの駒をデザインできる
アドビ システムズの作図ソフト「Illustrator」を使わなくても「Excel」でゲームの駒をデザインできる
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