IoT(モノのインターネット)技術を転用して、仕事ができる人の行動をセンシングし、その特性をあぶり出す。こんな野心的な取り組みに乗り出したのがネスレ日本(神戸市)だ。

 同社は2012年に職場向けにコーヒーを定期購入してもらうプログラム「ネスカフェ アンバサダー」を開始するなど、直販ビジネスを拡大してきた。直販比率は、10%を超える規模にまで成長している。

 そんな直販ビジネスの成長をアフターサービスの面で支えているのが、神戸本社内に設置されたコールセンター「ネスレVOCセンター」だ。300~450人ほどのコミュニケーターが在席し、日々の顧客からの問い合わせに対応している。

底上げしても個人差は埋まらず

 コミュニケーターの応対品質を高めるため、同センターは問い合わせてきた顧客にアンケート調査を実施。この回答データと顧客の属性、さらには通話時間や受付時間帯、保留時間といった通話に関するデータを組み合わせて独自のCS(顧客満足度)スコアを算出している。

 コールセンター全体のCSスコアを分析すると、数値の変動に影響を与える要因を見い出せる。例えば、「保留時間が△秒以上になるとCSスコアが下がる」といったことだ。得られた知見から、「保留時間は△秒以内にする」ことをマニュアル化する。こうして、センター全体の応対品質を高める施策を打ってきた。

 ところが、「コミュニケーター全員がそれらの施策を実行すれば、全員の応対品質が高まるはずだが、実際にはそうはならなかった」と、野崎善教マーケティング&コミュニケーションズ本部コンシューマーリレーションズ部部長は話す。CSスコアは、コミュニケーターごとに大きくばらついていたのだ。

図1●CSスコアはコミュニケーターによってバラつく
図1●CSスコアはコミュニケーターによってバラつく
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 「全体で底上げを図っているのに、なぜCSスコアに個人差が生じるのだろう」。そんな疑問を抱えていた野崎部長は、ある日、日立製作所の矢野和男氏が執筆した書籍『データの見えざる手』を、書店で見つけた。

 行動センシング技術を使って人の行動を見える化する手法を紹介した内容で、野崎部長を引きつけたのは「コミュニケーションの多い社員ほどパフォーマンスが高い」という分析結果だった。「CSスコアにも同じような相関があるかもしれない」。そう考え、コミュニケーターの行動を分析することにした。