「10年取り組んだとしても、成功するかは分からない」。みかんやオレンジの果樹が生い茂る農地を背にして、早和果樹園の松本将輝取締役常務はこう語る。

 ここは和歌山県有田市。早和果樹園は約7ヘクタールの農地で約7000本の果樹を栽培する。松本取締役常務は「農業で収集できるデータ分析の成果が上がるのは、まだまだ先になりそうだ」と続ける。

早和果樹園の農地。松本取締役常務は「1ヘクタール当たり約1000本の果樹が生い茂る。2011年から農地は増えており、2017年では約7ヘクタールほどだ」と説明する
早和果樹園の農地。松本取締役常務は「1ヘクタール当たり約1000本の果樹が生い茂る。2011年から農地は増えており、2017年では約7ヘクタールほどだ」と説明する
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早和果樹園ではみかんやオレンジなどを栽培しており、それらを原料にした加工品も製造、出荷している。
早和果樹園ではみかんやオレンジなどを栽培しており、それらを原料にした加工品も製造、出荷している。
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 2011年、早和果樹園は富士通と共同で、農地のデータや従業員の作業記録を蓄積し始めた。IoT(インターネット・オブ・シングズ)の活用を目指し、気温や降水量、土壌温度などのセンサーデータを分析。みかん栽培の品質や生産性の向上を狙った。

 目標として掲げたのは、勘やノウハウに頼っていた栽培技術を、ITの力を使って再現すること。栽培の達人ともなると、30年~40年以上にわたって熟練させてきた技術を駆使し、みかんを育てる。「達人の技術を作業記録やセンサーデータを基に分析できれば、新人や若手でも再現可能なのではないかと考えた」(松本取締役常務)。

難しいのはセンサーデータの活用

 それから約6年。作業記録は継続して蓄積してきた。しかし、5年分のデータを基に「みかん栽培の達人」の技術を再現する規則性やルールはまだ発見できていない。