野村総合研究所(NRI)は2016年12月、オーストラリアのシステム開発会社であるASGグループを274億円で買収した。2023年3月期にグローバル関連事業売上高1000億円という目標を掲げ、海外IT企業のM&A(合併・買収)にも力を注ぐNRI。何を強みとし、どのような会社を目指すのか。現状の課題は何か。此本臣吾社長に聞いた。

(聞き手は戸川 尚樹=ITpro編集長、編集は井原 敏宏=日経クラウドファースト)


 2017年3月期の業績については、売上高4250億円、営業利益590億円と前年に比べて増収増益を見込んでいます。現状の業績についてどう見ていますか。

 IT業界全体としてはさほど悪くないと思いますが、当社の場合、金融業界向けのビジネスに6割ぐらい依存しているため他社と状況が少し異なります。2016年はマイナス金利の影響などもあり、金融機関を取り巻く環境は良くなかった。このため、金融機関からの仕事が相当抑えられているようなところがあり、少々四苦八苦しているという状況です。

 2016年10月に2017年3月期の業績を下方修正しました。売上高を100億円下方修正したのは、金融分野で予定していた大型案件が時期ズレを起こしたためです。営業利益を30億円下方修正したのは、子会社であるだいこう証券ビジネスが、事業構造改革費用として特別損失を計上するためです。

野村総合研究所 代表取締役社長 此本臣吾氏
野村総合研究所 代表取締役社長 此本臣吾氏
1985年東京大学大学院工学研究科修了後、野村総合研究所入社。1994年台北事務所長、1995年台北支店長。2000年産業コンサルティング部長、2004年執行役員 コンサルティング第三事業本部長 兼 アジア・中国事業コンサルティング部長などを歴任し、2010年常務執行役員 コンサルティング事業本部長に就任。2015年専務執行役員 ビジネス部門担当、コンサルティング事業担当。2016年4月より現職(撮影=陶山 勉、以下同じ)。
[画像のクリックで拡大表示]

 金融業界では「FinTech」が話題になっていて、金融機関向けビジネスは堅調に伸びているようなイメージを持っていました。FinTech関連ビジネスはまだ立ち上がっていないということなのですか。

 はい。FinTechについては、現時点では期待先行の段階だと見ています。盛り上がってはいますが、ビジネスへの貢献度はまだ大したことがありません。でも、過小評価してはいません。FinTechに関連する様々な技術が成熟すれば、一気に立ち上がるでしょう。そのタイミングがいつかということです。

 私は、FinTechはカーナビと同じような形で、あるところで広がっていくのでないかと思います。カーナビが出てきた1980年代当初、話題にはなりましたが、位置の精度は悪くてあまり使いものになりませんでした。1990年代にGPS(全地球測位システム)が出てくるなど、技術が着実に進化し、2000年代に入ると実用度がぐっと高まりました。これと同じように、(FinTechも)いずれビジネスとして開花するでしょうから、FinTechの分野には投資し続けなければなりません。

 FinTechに関しては、技術の進化だけでなくマーケティングも重要だと思います。直近の「生活者1万人アンケート調査(金融編)」の結果を見ても、「アカウントアグリゲーション(複数金融機関の口座の残高などを一覧できるサービス)」や「ロボ・アドバイザー・サービス(投資診断や投資対象の選定などをネット上で自動で行うサービス)」といったFinTechサービスについて、「使ったことがある」と「関心がある」を合算しても10%未満にとどまります。