日本とシンガポールに拠点を置く投資会社ACAグループから50億円の出資を2017年10月に受けたワークスアプリケーションズ。それまでワークスアプリケーションズについては、「財務基盤に不安あり」との報道も流れていた。ERPパッケージを手掛ける同社のCEO(最高経営責任者)を務める牧野正幸氏に真相を聞いた。

(聞き手は戸川 尚樹=ITpro編集長、編集は島田 優子=日経SYSTEMS)



ACAグループから出資を受けるまでの経緯について教えてください。

 2016年当時、2017年度(2016年7月~2017年6月)までの間にIPO(新規株式公開)を予定していました。ところが、証券会社などから「赤字基調で上場後に果たしてきちんと株価を形成できるのか」との指摘がありました。2017年度(2017年6月期)の営業利益は1億7000万円の黒字でしたが、上場準備のコストなどがかさみ経常赤字。証券会社からは「黒字化してから上場してほしい」という意見が出ました。

ワークスアプリケーションズの牧野正幸CEO
ワークスアプリケーションズの牧野正幸CEO
1963年、神戸市生まれ。大手建設会社、外資系ITコンサルティング会社を経て、1996年に現・最高執行責任者の阿部孝司氏、現・最高技術責任者の石川芳郎氏とともにワークスアプリケーションズを創業。2015年12月には主力ERP「COMPANY」に次ぐ新たなERP「HUE」をリリースした。人工知能技術の開発・実用化や IT人材の育成に注力している。2015年から文部科学省中央教育審議会委員、 2016年から内閣府主催「第4次産業革命 人材育成推進会議」委員、2017年から 経済産業省主催「『Connected Industries』懇談会」の座長を務めている(撮影=陶山 勉、以下同じ)
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 赤字が続いていたのは、新しいERP(統合基幹業務システム)パッケージ「HUE(ヒュー)」の開発に巨費を投じていたからです。外部からはIPOそのものに反対する意見も出ました。我々は2011年、MBO(経営陣が参加する買収)をしています。「MBO前と何が変わったかを明確にしなければ、『再度MBOするのではないか』とマーケットから思われてしまうだろう」と。このような状況では2017年のIPOは難しいとあきらめました。

 IPOで100億円を調達することを考えていましたから、違うやり方で資金を調達しなければならなくなりました。様々な方面に声をかけた結果、ACAやそのほかの投資家から資金を集めることができました。内訳はACAから60億円、そのほかの投資家から40億円です。

ACAグループは、赤字経営の御社について、どのような点を評価して出資を決めたのでしょうか。

 当社の製品の可能性を高く評価してくれたということです。ACAは当社の主力製品であるHUEについて、「グローバルで売れそうだ」と関心を持ち、様々な観点から審査を始めました。当社製品の顧客企業に訪問してヒアリングしたり、シリコンバレーの技術者がHUEの中身を徹底検証したりしていました。その結果、当社に投資することを決めてくれたということです。

ワークスアプリケーションズの課題や懸念材料はあったはずです。ACAグループからどのような指摘を受けたのですか。

 顧客企業との訴訟です(編集部注:兼松エレクトロニクスは2017年6月、基幹システム刷新プロジェクトの失敗を巡り、14億円の損害賠償を求めてワークスアプリケーションズを提訴した)。係争案件があるという事実に着目し、「同じように顧客とトラブルになっている案件を全て洗い出してほしい」と言われ、きっちりと説明しました。