レンズらしきものはあるが、ファインダーやディスプレイなどが付くカメラボディは一切なし─。オリンパスが2015年3月からネットで販売する「OLYMPUS AIR」はこんな形状だが、高画質な写真や動画が撮影できるれっきとしたデジタルカメラだ。
Wi-Fiやブルートゥースを使った無線通信機能を備え、専用のスマホアプリでシャッターを切ったり、撮影した写真を確認したりできる。スマホと組み合わせれば、離れた場所からの遠隔撮影も楽しめる。
「高い木に吊り下げれば、芝生に集まる大勢の仲間を一緒に撮影できる」といった、OLYMPUS AIRならではの活用法を公式フェイスブックページで公開。ファンを着々と集め、2016年9月までに1万4000人を突破した。毎週のべ20万人以上が閲覧するという注目度の高さだ。
スマートフォンに押され、デジタルカメラの市場が伸び悩むなか、熱いファンの獲得に成功した。この製品もオープンイノベーションから生み出された。パートナーは米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究室「MITメディアラボ」。MITが持つ世界最先端の頭脳に加えて、そのブランドもフル活用。オリンパス単独では訴求できなかったユーザーやパートナーの心をつかむことに成功した。
以下では「コンセプト作り」「開発」「パートナー開拓」「拡大」の4つのフェーズごとに、「MIT流」のオープンイノベーション術を見ていこう。
【コンセプト作り】 最先端の40人がアイデア出し
MITメディアラボには世界中から研究者や開発者が集まり、新しい技術や製品、サービスを形にしていく。オリンパスをはじめとする製造業のほとんどが採る「1社単独で基礎研究から製品化まで完遂する積み上げ型の開発スタイル」とは大きく異なる環境だ。
それに強いあこがれを抱いていたのがオリンパス技術開発部門モバイルシステム開発本部画像技術部研究1グループの石井謙介課長だ。米国法人に在籍し、別大学と共同研究を進めていた石井課長は、「従来の研究開発とは異なる文化に触れて、斬新な製品開発につながるような刺激を受けたい」と、所属する研究部門の上司を説得し、MITメディアラボの企業メンバーになった。
スマートフォンの普及で出番を失いつつあるデジタルカメラにはどんな未来像があるのか。石井氏は2012年5月、それをテーマにしたワークショップを、MITメディアラボで開いた。MITの研究者や学生、他企業からの研究生を交えて40人ほどが参画してアイデアを練った。
様々なアイデアが飛び出したなか、石井課長が着目した製品コンセプトが、「オープンプラットフォームカメラ」だった。
カメラ本体には、最小限の機能だけを持たせ、極力小型化する。スマートフォンでカメラを制御し、スマホアプリやボディを含めたアクセサリーは、オリンパス社外のユーザーが自由に作れるよう、開発環境も提供するというアイデアだ。
「ユーザー自身がアクセサリーやアプリを組み合わせて、撮影体験を様々に作り込める。そんな用途の広がりが期待できるアイデアに魅力を感じた」と、石井課長は話す。