―― 前回はこちら ――

「アタマが良くなる眼鏡を作りたい」。経営トップのこんな発想から、IoT(モノのインターネット)を応用して、人の集中度などを測定する眼鏡を開発すべく、オープンイノベーションに乗り出したジェイアイエヌ(JINS)。発売の1年半前に開発計画を明らかにして、センサー技術などにたけたパートナーを募った。

 製品の完成に先立ってコンセプトと開発計画をオープンにした理由はもう1つあった。JINS MEMEを業務やビジネスに活用する企業を発売前に発掘しようと考えたのだ。

 ただし、「眼の動きやまばたきが測れる」といった、JINS MEMEの機能の詳細を説明しただけでは、企業の担当者はイメージを広げられず、活用アイデアが生まれにくいと予想された。

 そこで井上リーダーは、「かけた人の集中度を測れる」と、JINS MEMEが「できること」を、強調することにした。教育分野の企業に対して「学習能力を高めるのに役立つ」とアピール。健康ビジネス業界に向けては「歩行中にひざの痛みを解消する仕組み作りに生かせる」などと、提案している。

●JINS MEMEの市場開拓でもオープンイノベーションを適用
●JINS MEMEの市場開拓でもオープンイノベーションを適用
[画像のクリックで拡大表示]

 この策が功を奏し、2015年11月の発売後、JINS MEMEを介した企業との提携が増えている。

 その一例が、転職サービス「DODA」を手掛けるインテリジェンス(東京・千代田)との協業だ。同社は2016年春から、JINS MEMEで集めたデータを、企業と求職者のマッチングに生かすプロジェクト「Life Interview」に取り組んでいる。

自分に合う働き方も「見える」

 企業が求職者の採用を判断するうえで重要なポイントになるのが面接。だが限られた時間では、求職者の日々の働き方や生活の仕方まで把握するのは難しい。そこでJINS MEMEを使ってそれらの情報を収集。採用に役立てることを目指す。

 「企業が求職者をいったん採用したものの、“入社してみたら働き方が自分に合わないと分かった”と、離職してしまうケースが少なくない。そういったミスマッチを未然に解消したいと考えて、JINS MEMEに着目した」と、インテリジェンスの木下学キャリアディビジョンマーケティング企画統括部DODA編集長は話す。

 プロジェクトは、ヤフーやディー・エヌ・エーといった企業4社と、多摩美術大学など3大学から協力を得て進めている。

 企業のオフィスワーカーと、大学生それぞれにJINS MEMEと、専用スマホアプリを提供。スマホアプリに、「○時から○時まで授業に出席」「×時から2時間パソコンで仕事」といった行動データを入力してもらう。そこにJINS MEMEで収集した集中度や落ち着き、姿勢などのデータを重ねて分析し、行動との関係を探る。

 そのうえで「『この学生には、この企業のワークスタイルが合っているか』などを、高精度でマッチングできるよう、データの分析手法を確立していく」と、プロジェクトを担当するキャリアディビジョンマーケティング企画統括部DODA編集部広告宣伝グループの森本大氏は話す。

 例えば、集中度が長く続く学生であれば、長時間のデスクワークや資料作成が得意な傾向にあり、ITエンジニアや経理などの仕事が向いている可能性が高いと考えられる。

 プロジェクトは、データの収集が終わり、分析に入っている。分析結果を各社にフィードバックし、年内には、実用化に動くかどうかを見極めていく予定だ。

●人材サービスのインテリジェンスが“未来の面接”で適用進める
●人材サービスのインテリジェンスが“未来の面接”で適用進める
[画像のクリックで拡大表示]

 ジェイアイエヌはこのほか、大手運送会社、鴻池運輸と眠気を検知するアルゴリズムの実証実験を推進。2016年8月にはトレーニング機器大手のライフ・フィットネス・ジャパンとともに、フィットネス関連の新サービス開発に着手している。「既に200社以上と話し合いの機会を持った」と井上リーダーは打ち明ける。「頭が良くなる眼鏡」という田中社長の夢から始まったプロジェクトは、オープンに仲間を増やし、様々な展開につながっていきそうだ。