眼鏡とは、「目の前にあるもの」あるいは「遠くにあるもの」を見えやすくするツール。そうした常識を覆したのが「JINS MEME」。眼鏡製造小売り(SPA)大手のジェイアイエヌが2015年11月に販売を開始した。従来の眼鏡に、「自分も見つめる」機能を組み込んだことで大きな話題に。個人購入だけでなく、企業での導入事例も生まれている。

 「自分も見つめる」とは何か。JINS MEMEのフレーム部分には、かけた人のまばたきや、視線の方向を捉えるセンサーや、かけた人の体のバランスをつかむセンサーが電源とともに内蔵されている。これらで捉えたデータを、無線通信技術のブルートゥース経由で、スマートフォンに転送。様々なアプリで分析できるようにしている。

 代表的なアプリの1つが「JINS MEME OFFICE」。人の集中度を定量的に測定するものだ。JINS MEMEで収集したデータを基に、集中の深さや集中状態が続いた時間を見える化する。それを踏まえて、集中力が低下する要因を突き止めて、集中力を向上させるトレーニングも提供している。

2016年5月に提供開始したアプリの1つ「JINS MEME OFFICE」では、集中、活力、落ち着きの状況を把握する。「アタマ年齢」なども導き出す
2016年5月に提供開始したアプリの1つ「JINS MEME OFFICE」では、集中、活力、落ち着きの状況を把握する。「アタマ年齢」なども導き出す
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始まりは“認知症を発見する眼鏡”

 眼に悪影響を及ぼすブルーライトをさえぎる「JINS SCREEN(旧JINS PC)」など、新しい眼鏡を世に送り出してきたジェイアイエヌ。だが、センサーで目の動きを把握し、分析するといったIoT(モノのインターネット)関連の技術の知見が豊富だったわけではない。コンセプト開発と技術革新をどう実現したのか。その答えが「オープンイノベーション」だ。

 JINS MEMEの開発に当たってジェイアイエヌは、大学などの研究機関や部品メーカーなどとの共同プロジェクトを組んだ。さらに開発の途中でその計画を公にし、技術開発や用途開発の協力者を幅広く募り、「オープン」なイノベーションを実現した。

 JINS MEMEの開発プロジェクトのリーダーを務めたのは、ジェイアイエヌの井上一鷹JINS MEMEグループMindfullness研究リーダー。2012年、井上リーダーが経営コンサルティング会社からジェイアイエヌに移籍してすぐにプロジェクトはスタートした。

開発を統括したジェイアイエヌの井上一鷹リーダーは自らJINS MEMEをダイエットに適用し体重を8㎏減らした。集中度を測るアプリも活用し、喫茶店よりも公園のベンチのほうが集中できると判明。「自らのセンシングで生活を変えられると実感している」と話す
開発を統括したジェイアイエヌの井上一鷹リーダーは自らJINS MEMEをダイエットに適用し体重を8㎏減らした。集中度を測るアプリも活用し、喫茶店よりも公園のベンチのほうが集中できると判明。「自らのセンシングで生活を変えられると実感している」と話す

 田中仁代表取締役社長はその数年前から「頭をよくする眼鏡を作りたい」といった構想を、様々な研究者に持ちかけていた。

 そのなかで「脳トレ」で有名な東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授と意気投合。「認知症の予兆である眼の動きや体のバランスの偏りを測れる眼鏡」というアイデアがまとまっていた。

 そこで、井上リーダーも参画して構想を深掘り。「頭や目の動きを計測できれば、認知症の兆しにとどまらず、そこから脳の働きが捉えられるのではないか。集中しているかどうかもつかめそうだ」と、コンセプトが見えてきた。

 眼の動きを捉えるには、センサーが必要だ。そこで眼から出ている微弱な電気信号を継続して計測することで、人の心の動きや眠気などを把握する研究に携わる芝浦工業大学の加納慎一郎准教授に協力を要請。共同研究を進めた。

 体のバランスについては、歩行時のデータ解析を究める慶応義塾大学スポーツ医学研究センターの橋本健史准教授と、センサーで体のバランスを分析するアルゴリズム開発を進めた。