リーダーにとって腹心は極めて重要な存在だが、どの現場にもいるわけではない。探したところで簡単に見つかるわけでもない。素質のある人材を見極め、腹心として育てることが必要なのだ。腹心は何人いてもよい。複数の候補者がいれば、並行して育成する。

 筆者は腹心の育成に、以前から問題意識を持って取り組んできた。実践している育成方法は、「候補者を選定する」「腹心としての動機付けをする」「能力が高まる仕事を任せる」「考え方、動き方を伝える」「権限委譲を進める」という五つのステップで構成される(図3)。以下で順に解説しよう。

図3●腹心を育てる五つのステップ
図3●腹心を育てる五つのステップ
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Step1 候補者を選定する

 腹心を育てるには、まず候補者を選ぶ。では、腹心にはどういう能力を持った人がふさわしいのだろうか。図1の腹心の定義に示した「リーダーを補佐できるマネジメント力」と「『絆』と呼べる強い信頼関係」に分けて考えてみよう。

 マネジメント力については、リーダーとしての能力にほぼ等しく、大きく「コミュニケーション力」「問題解決力」「計画実行力」が求められる。コミュニケーション力としては、説明力、ヒアリング力、説得・交渉力などがある。問題解決力は、問題を分析して重要な原因を突き止めた上でその対策を考え、優先順を付けて対処する能力のことだ。計画実行力は、計画を立てて進捗を管理しつつ完遂する能力のことである。

 「そんな能力を兼ね備えた部下はいない」という声が聞こえてきそうだが、それはその通りである。腹心はこれから育てるのであって、その候補者を選ぶ段階で、能力の低さを嘆いても仕方がない。伸びしろがどれだけありそうかという評価をする項目として考えてほしい。

 注意したいのは、IT、開発方法論、ユーザーの業務といった実務知識の豊富な部下が腹心に向いているとは限らないことである。そういう能力よりむしろ、他のメンバーから信頼され、自分で問題を解決し、チームを円滑に運営していけるマネジメント力のほうを重視すべきだと思う。付け加えるなら、ストレス耐性が高い、モチベーションを高く維持できる、目標に向かってひたむきに進むといった「マインドの強さ」も重要な要素である。