ITの現場では、想定しない問題が日々発生するもの。リーダーは困難な状況をあらゆる手を使って解決する必要がある。その際、リーダーにとって頼りになるのは、自分を補佐できるマネジメント力を持っていて、かつ強い信頼関係で結ばれたサブリーダー、つまり「腹心」である(図1)。

図1●「腹心」の定義
図1●「腹心」の定義
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 「腹心と呼べる部下はいないし、育てることも無理」と嘆くリーダーも多いだろう。でも諦めるのは早い。メンバーの中から腹心の候補となる人間を選び、適切に育成することで腹心となる人材は育つ。

 筆者はユーザー企業のシステム部門で多くの開発プロジェクトを経験し、現在はシステム企画担当の管理職として実務を行っている。これまで多くの部下を育成し、自分の腹心となる人材も育ててきた。本稿では、筆者のこれまでの経験や事例研究をベースに、腹心を育成する方法を解説する。

 まず、腹心のイメージを具体的につかんでもらうため、ある企業で実際にあった事例を紹介したい。

もうダメと覚悟した状況で救われる

 「あのときはどうなるかと思った。もうダメだと覚悟した」。

 損害保険会社A社の情報システム部の課長を務める剛田さん(仮名)は腹心の村沢さん(仮名)と当時を振り返る。あのときとは、低価格の損害保険を扱うために設立した子会社B社における保険システムパッケージ導入のプロジェクトである。

 A社の企画部門のY課長は、手早く低価格で子会社にシステムを導入したい意向だった。この意向を受けて、納期と価格の面で有利な海外製パッケージの導入を前提にプロジェクトが進んでいた。

 これに対し、途中からプロジェクトに参加し開発リーダーを務めることになった剛田さんは、開発元に対する英語でのコミュニケーションの難しさ、日本国内における保守体制の脆弱さなどのデメリットを危惧した。剛田さんは国内製のパッケージが良いという考えで、企画部門のY課長と激しく対立した。

 剛田さん以外のメンバーはというと、「Y課長が海外製パッケージにしたいというのだから、それに従えばいいだろう」という雰囲気だった。「海外製パッケージを導入した場合のリスクを調査してほしい」という剛田さんの指示に、表面的には従うものの本気では動かなかったという。

 剛田さんはこの状況を打開するため、腹心の村沢さんを開発サブリーダーとして新たに加えたいと、上司のシステム部長に要請。部長はこれを受け入れた。

 新たに加わった村沢さんは、剛田さんから状況を聞き、自分で海外製パッケージのリスクを調査した。1週間かけて社外の有識者30人に会い情報を収集。剛田さんの危惧が妥当であることを確信した。

 村沢さんは客観的な資料を作成した上で、Y課長に対して慎重に説明し、コンペを実施することに成功。最終的に、剛田さんが推した国内製パッケージに決まった。その後、このパッケージを使ったシステムは問題なく稼働。品質が安定しており、保守コストを抑えられているという。

 剛田さんは、「四面楚歌の状況で、自分と同じ考えを持って動いてくれたのは、腹心の村沢だから。本当に救われた」と感謝する。