IT人材は2030年に最大79万人不足する―。経済産業省は2016年6月10日、「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」を発表した。この調査で対象にしているIT人材とは、ITベンダーおよび、ユーザー企業の情報システム部門に所属する人を指す。

 調査の結果報告では、2016年時点で既にIT人材は17万1000人不足しており、2020年には最大36万9000人が不足するとも指摘。この数字だけ見ると、人材需要は拡大傾向で、ITエンジニアには明るい未来が待ち構えているように見える。だが内実はそんな単純な話ではない。

 「不足しているのは『本物のITエンジニア』」。こう話すのは、「納品のない受託開発」を手掛けるソニックガーデンの倉貫義人氏だ。「ユーザー企業の内製指向が強まったり、スタートアップ企業が増えてきたりと、ITベンダー以外からのITエンジニアの需要は確実に増えている。こうした企業が求めているのは、技術力が高く、かつ開発経験が豊富な本物のITエンジニアだ」と倉貫氏は見る。

 今すぐに事業を起こしたり、サービスを始めたりしたい企業は、スピードを重視する。だからこそ「技術力と経験を持ち、スピードに付いて行けるエンジニアが求められている。いくらITエンジニアが不足しているからといっても、能力がない人は見向きもされない時代だ」と倉貫氏は話す。

 こうした動きをITエンジニアの派遣などを手がけるパソナテック HRリレーション部 部長の森谷悠平氏も感じている。「以前は経歴を重視し、保有する資格などを加味してITエンジニアを採用する企業が多かった。しかし今はそれだけで採用する企業はほとんどない」と森谷氏は話す。「課題を与えてアルゴリズムを考えてもらう。コードを見ればスキルが分かるからだ。履歴書だけでは見えない技術力や経験の蓄積をチェックして、自社に合う人材かどうかを見極める企業が増えている」(森谷氏)という。

「提案脳」で本物を目指そう

 では、需要が高い本物のITエンジニアになるには、何をすべきなのだろうか。まずは、「受託脳から提案脳になることを意識すべきだ」とソニックガーデンの倉貫氏は話す(図1)。

図1●市場価値を高めるためには発想の転換が必要に
図1●市場価値を高めるためには発想の転換が必要に
ソニックガーデンの倉貫義人社長CEOは「提案脳」への転換を勧める
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 受託脳とは「言われたことを着実に実施する」考え方を指す。指示された通りに開発する、プロジェクトの特性を考慮せず一律に教科書通りの管理をすべきといった発想をする人だ。対して提案脳は、「困ったこと見つけて解決策を提案する」との考え方のこと。「どのような機能を開発すれば顧客が喜んだり、驚いたりするか」を考えて仕事をする人を指す。

 ITベンダーが受注した案件でも、要件定義フェーズを明確に完了できずに、顧客企業と相談しながらシステムを作り上げるイノベーション型のプロジェクトが増えている。引き続きITベンダーで働くITエンジニアであっても、「確実に仕様通りのシステムを作る」という受託脳からの脱却が求められているわけだ。