新庁舎移転を機に紙文書ゼロを目指した豊島区。タブレット端末を配布し、無線LANを配備してペーパーレス会議を実現。統合コミュニケーションサービスも導入した。書類の管理や活用が容易になり、区議会の進行も円滑になるメリットが得られた。

 豊島区は、国内で最も人口密度が高い自治体で、乗降客数が新宿に次いで世界第2位の池袋駅がある地域の行政機関だ。

 2015年5月、50年以上使っていた旧庁舎から、新庁舎に移転した。建設コストの実質ゼロを目指し、区有地に高層マンションを併設するなどして話題を呼んだ。建築家の隈研吾氏がデザイン監修を担当。10階建ての新庁舎は、木や緑であふれるスタイリッシュな外観を持ち、内部には吹き抜けが続く。「お役所」とは程遠い印象だ。

豊島区の新庁舎(手前)は屋上含めて10階建て。外観に木や緑があふれる。区有地に、高層マンション(後方)を併設することで、区民へのコスト負担を回避
豊島区の新庁舎(手前)は屋上含めて10階建て。外観に木や緑があふれる。区有地に、高層マンション(後方)を併設することで、区民へのコスト負担を回避
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 建物に負けず、職員約1000人のワークスタイルもぐっとスマートになった。旧庁舎では、紙文書がデスクに山積していることが多く、企画書などを作成するのに必要な関連文書を探すのに時間がかかっていた。

 そこで豊島区は、新庁舎への移転に先立ち、紙文書の削減を進めた。2009年、電子決裁機能を備える文書管理システムを整備し、職員にノートパソコンを配布。文書の起案・承認プロセスをペーパーレス化した。

 新庁舎移転に当たっては、約100人の管理職が使うITを、ノートパソコンからタブレット端末に代えた。管理職は、外出や区議会への出席が多い。そんなときでも電子文書の閲覧などをしやすくする。

 これが、区議会運営でプラスに働いている。豊島区議会では、議場にノートパソコンやタブレットを持ち込むことが認められている。そこで、豊島区の管理職は、議会にタブレットを携えて参加する。「想定外の質問を受け付けても、タブレットから関連文書ファイルなどに当たれる。その場で回答でき、議会運営もスムーズになった」と、高橋邦夫区民部税務課長は明かす。高橋課長は2015年3月まで、政策経営部情報管理課長を務め、ワークスタイル変革を担う立場にあった。

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 従来、区議会に参加する管理職が持ち込んでいたのは紙の資料だった。持ち込んだ資料では答えられない質問が議員から出されたときは大慌て。議会の休憩時間中にオフィスへ急いで戻り、回答に必要な資料を探す対応に追われていた。

 メリットはこれだけではない。管理職がタブレットを携えて外出するようになったことで、決裁処理も早くなった。従来は、庁舎内にいる職員が上司に電子文書を決裁してほしい場合、上司が外出中だと、戻ってくるまで待つ必要があった。

 今では管理職が外出先からタブレットを使って、承認手続きができるようになった。タブレットは、LTE回線からKDDIの閉域ネットワークを介して本庁内のLANに接続するようにしてある。これでネットワークセキュリティを確保する。